最近のニュースではノーベル賞と並んでイグ・ノーベル賞の話題が扱われるようになりました。ノーベル賞と違って、少し変な研究を扱うといったイメージがありますが、「イグ・ノーベル賞の受賞者たち」(以下、本書)はその実情を扱った一冊です。
研究してる本人大真面目、見ているこちらは大爆笑
本書はイグ・ノーベル賞を受賞した日本人研究者を取材したものです。収録された2016年から2025年まで毎年日本人が受賞しており、個々の研究は多岐にわたるものの、共通しているのは一般的に気づかれなかった着眼点からの笑える研究であること。それこそがイグ・ノーベル賞の趣旨に合致するのは言うまでもありません。
「5歳児が1日に分泌する唾液量の測定」(本書57ページ)「雄と雌で生殖器の形状が逆転している昆虫を発見」(同15ページ)など、本書には聞いただけで吹き出してしまう内容が並びますが、その実これらの研究は我々の生活に密着した問題解決につながる重要なものでもあります。
渋滞はなぜ起こるのか
その中でもわかりやすいものは「歩行者同士が衝突する理由の実験」(本書97ページ)。自動車や歩行者の渋滞がなぜ起きるのかを研究した結果、効率を求めて距離を詰めるより、ある程度の余裕を持たせたほうがスムーズな流れを生むという結果に落ち着きました。これは人間活動の様々な局面で応用が効く理論であります。
さらに「股のぞき効果の研究」(同173ページ)では直立した時と違い股の間から見ることによって、人間の視覚が本当に変化している、という結果が導き出されました。本書の内容には「電気を通す箸と皿による味覚変化」(同133ページ)などがあり、人間の感覚や構造にまだまだ未解明の部分があることがわかります。
牛に縞模様を描いて害虫避けに?
イグ・ノーベル賞の研究対象は人間だけではありません。「白黒模様のシマウシに虫除け効果の発見」(本書153ページ)では家畜の牛にシマウマのような縞模様を描くことで、害虫避けになるという驚きの研究が紹介されています。これは防虫対策のコストダウンにつながり、画期的な成果が見込めるかもしれません。
「ワニもヘリウムガスを吸うと声が変化」(同193ページ)は、聞いただけではウケ狙いにも思えますが、爬虫類であるワニも人間などの哺乳類と同じ発音機構を持つことがこの研究でわかりました。生命が音を用いてコミュニケーションを取る仕組みの歴史が、かなり過去に遡れることの現れといえましょう。
面白さの先に科学への興味を
先に述べた通り「まず笑わせ、そして考えさせる」(本書219ページ)のがイグ・ノーベル賞の趣旨であります。それは科学に興味を持ってもらうための入口であり、当たり前とされていることへ一歩踏みとどまって検証することで、新たな発見とさらなる面白さを見出すための重要な賞とも言えるでしょう。
そんな研究の発端は切迫した必要性によるものが多く、ふとした疑問を持つだけでは成立しない厳密な研究がそれを支えているのです。(同賞に限らず)科学で最も大事なのは「答えが決まっていない問い」(本書217ページ)に向き合う態度であり、(日本人が受賞し続けている事実から見て)幸いにも日本にはそれを許容する環境があるのかもしれません。
「イグ・ノーベル賞の受賞者たち」ニュートン編集部 編 ニュートン+新書 1540円(税込)