竹内栖鳳が描いた「斑猫」のように、猫は日本画のモチーフとして珍しいものではありません。「コイモ 小熊香菜子画集」(以下、本書)は飼い猫を題材にした日本画家の作品集です。
小芋のような猫がやってきた
本書は日本画家・小熊香菜子の画集で、そのモチーフとなったのは著者の飼い猫・コイモ。「拾った子猫の時、掘りたての里芋(小芋)そっくりだったので」(本書2ページ)名付けられたコイモは、著者の身の回りにある食材とともに作品を構成しています。
表紙になっている食卓を覗く姿や丸くなって寝る様子、伸びや首をかく動作まで、猫のあらゆる所作が収められ、「写真は使わず、観察を重ねて描く」(同49ページ)姿勢が、デフォルメしながらもそのエッセンスを捉えた筆致で証明されています。
違う違う、オレじゃない
作品そのものも当然ですが、そのタイトルが秀逸であるのも本書の魅力。(多分著者に)抱きかかえられているコイモを描いた作品は「猫降臨図」(本書18ページ)。仰々しいタイトルの割にコイモの表情が何も考えてないように描かれているのがおかしみを誘います。
上目遣いで振り向く姿を描いた作品には「なぁに」(同103ページ)、倒れた花瓶のそばにたたずむ様子を描いた作品には「おれじゃない」(同23ページ)、エリザベスカラーをつけられた姿には「猫にエリザベス」(同37ページ)などシチュエーションが思い浮かぶタイトルが付けられ、作品鑑賞の助けになっています。
ネコが猫を覗くとき
本書巻末にはモデルとなったコイモの写真が収められています。描かれたときから成長しているはいえ、その不敵な佇まいは健在。「作品と比べるととっても小さい」(本書122ページ)と語られるくらいの大きさを誇るものから実際より小さいサイズの作品まで、様々な日本画とともに対比されたコイモが写っています。
特に、ふすまの隙間に置かれた小品を覗くコイモの写真には「猫をのぞく時、猫もまたこちらをのぞいているのだ…」(同129ページ)とのキャプションがあり、鏡合わせのような不思議な雰囲気と洒落っ気のある1枚となっています。
普遍的なキジトラ柄
コイモはキジトラ柄の猫で、「良い意味で個性がないところが魅力」(本書50ページ)と著者が語るだけあって普遍的な猫として描かれています。それが鑑賞者の共感を集め、まるで自らの猫であるかのような錯覚をもたらすようです。そしてその姿は決して人間に媚びない自由さに溢れ、普遍的な猫そのもの。
筆や鉛筆で一本一本毛なみを描かれたコイモたち。印刷物ではその質感を再現するには限界がありますが、少なくともその雰囲気を感じるには十分でしょう。
「コイモ 小熊香奈子画集」小熊加奈子 著 辰巳出版 1980円(税込)