美術で描かれる女性像は時代によって変化し、様々な形を取ってきました。それはどうして起こるのでしょうか。「身体の美学入門」(以下、本書)は人間が美を感じる仕組みを通して、その心の働きの傾向を探る一冊です。

感性とは、理屈ではない
本書は「感性を扱う学問」(本書はじめに)美学について語るものです。人間は、観るあるいは触れる対象に価値を付与します。それは「美しい」「醜い」など自らの価値基準に照らし合わせたものですが、その基準はどこから生まれてくるのでしょうか。美学はその感性に関する研究をするものです。
しかしながら感性とは言語化しづらいものであります。それについて美学は「自分ではその機序を説明することができない、独自の原理によって作動する力」(本書32ページ)と定義して、その働きとそれが人間に何をもたらすのかを解き明かすのが本書の内容です。
美しさも醜さも、社会が作る
美、特に女性におけるそれは時代によって変化しているのは歴史を見れば分かることですが、それはどうやって変化していくのでしょうか。本書では「肥満」に注目し、それが美しさから醜さに変化していく歴史を紐解いていきます。かつて、欧米における女性の美は豊満な体つき(ルーベンス作品などに見られる)が主流でしたが、あくまで女性のみに適応される概念でありました。
それが、大航海時代を経て欧米人以外の人々が知られるに伴い「肥満という身体的特徴は、十八世紀までに、黒人女性のイメージと結びつき」(本書87ページ)、人種差別をはらんだ価値観を生み出しました。つまり、美醜の価値観は社会の中で醸成されていくものなのです。
かつて山は、醜いものだった
これは自然の捉え方でも同じで、かつて欧米ではキリスト教的価値観のもと山は神が作った大地における不純物と見なされ、それが覆るのは18世紀でありました。実際に登山をした人々によって大自然に触れた感覚を「崇高」と表現するようになり、それが伝播することによって価値観が変化していったのです。
このように、「これまでの慣習的な見方を離れ、対象の観察にもとづいて新しい見方を作り出す」(本書163ページ)のが感性が持つ役割の一つです。それは見る対象に、従来みなされていた価値観を容易に飛び越える魅力を見出すことを可能にするのです。
感性の更新は、愛へつながる
例えば、ある障害を抱えた人に対する見方を「障害者」と一括りにするのではなく、その人個人の「個性」として捉え、そこに魅力を感じる。本書ではそんな体験談が掲載されています。感性によって更新された価値観をもってすれば、他者に対する愛情も起こりやすくなるでしょう。
近年、痩せていることがステータスであったファッションモデルの世界に異を唱えるようなプラスサイズモデルが活躍しているように、美というものに対する価値観が変化しつつあります。それは社会の変化の現れでもあり、そこには理性ではままならない感性の働きも一役買っているのでしょう。
「身体の美学入門」伊藤亜紗 著 中公新書 1100円(税込)