荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方

 長期シリーズとなった漫画「ジョジョの奇妙な冒険」。そこにはどんな思想や技法が込められているのでしょうか。「荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方」(以下、本書)はその作者が創作の秘密を綴った技法書の続編です。

荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方税込1,034(2024/12/30時点)

漫画における「黄金の道」

  本書は漫画家・荒木飛呂彦が創作の秘密を明かした「荒木飛呂彦の漫画術」の続編です。前作が「漫画の描き方の王道」(本書3ページ)を連ね、本書はさらに深く、重要な要素・悪役について解説しています。前作を補完する内容ですが、前作とのタイムラグがこれを生み出したといえるでしょう。

 ただ本書でも漫画の要素(本書では「黄金の道」)を復習する意味で掲載しており、「キャラクター」「ストーリー」「世界観」それを包括する「テーマ」の4要素が有機的に融合し流動することで作品の面白さが決まる、としています。

悪役のそこにシビれる、憧れるゥッ!

 「魅力的な悪役が出来れば、作品の半分が決まる」との言葉があるように、悪役は物語にとって重要なもの。本書でも「ジョジョの奇妙な冒険」の歴代悪役を例に、その成立過程を明かしていきます。そこには成立した時代の社会と密接に関係した「悪」が見えてきます。

 「結局のところ、悪役とは(中略)今の時代の困難や乗り越えるべき何か」(本書88ページ)と著者は定義し、それに沿った悪役を設定することで魅力的なキャラクターづくりにつながると考えています。その分「作者の『悪とはなにか』という一種の『哲学』が反映される」(同89ページ)難しさもあるのです。

漫画編集者も悪役?

 さて、著者はもう一つの代表作「岸辺露伴は動かない」の登場人物・編集者の泉京香(ドラマ版ではレギュラー)を悪役と定義しており、主人公・岸辺露伴を奇妙な事件にいざなう役割として、その自覚のない彼女を悪役とみなすのは無理からぬことかもしれません。

 本書ではその一編「ホットサマー・マーサ」を教材に、岸辺露伴と泉京香の対比を解説しています。露伴の作品に対する信条と、京香の漫画をビジネスと割り切った判断が対立し、それをきっかけにさらなる奇妙な事件が起こる構造はまさに物語を進める両輪となるのです。

理想と仕事のはざまで

 先の漫画家と編集者の対立は実際にあることですが「基本、編集者は漫画家の『敵』ではありません」(本書164ページ)として、著者自らの体験をもとに編集者との付き合い方を語っています。どちらも作品を面白くしようとするがゆえの意見であり、時には必要な過程であります。

 それでも自分の描きたいものは大事にすべきですが、読者が存在する以上自分の好きなもの、伝えたいことを他人に読ませるための努力は怠るわけにはいきません。本書はその葛藤と楽しさを語り、漫画の将来に想いを馳せて終わっています。漫画の技法書としてだけではなく、文化としての漫画について書かれたものとしても本書は楽しめるでしょう。

「荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方」荒木飛呂彦 著 集英社新書 1034円(税込)

One thought on “荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です