できるできないのひみつ

 昭和の学習まんがといえば、内山安二。シンプルな絵柄とナンセンスあふれる作風で子供を楽しませたその作品たちが、いま電子書籍で読めるのです。その中でも「できるできないのひみつ」(以下、本書)はその完成度と相まって一番人気といえるでしょう。

「ヤメレ、食っちまうぞ!」がなつかしい

 本書は1976年に出版された学習まんがの電子書籍です。学習雑誌をメインに活躍していた著者の単行本としては「コロ助の科学質問箱」と並ぶ代表作であり、雑誌を購読していなかった子供にもその存在を知らしめた重要な作品であります。

 あらすじは、少年・やっ太があらゆる人間の限界に挑戦しようとするのを外国人・デキッコナイスが「できっこないす」と否定し、ケンカとなるのをブタのブウドンが「ヤメレ、食っちまうぞ!」と仲裁(?)、物知りのけつろんおしょうがその問題について解説する、というパターンで進んでいきます。

限界に挑め!本作のプロトタイプ

 本書の最後には74年に雑誌連載された「玄海とイドムンコスキー」の第1回が収録されています。小坊主・玄海と外国人・イドムンコスキーが人間の限界に挑む旅を続ける、というもので、イドムンコスキーが玄海と張り合う以外はほぼ本書と同じパターンであり、この作品に生かされているのがわかります。

 いずれにしろ、「人間は何も食べないで何日間ぐらい生きられるか?」「人間は何日間ぐらいねむらずに生きられるか?」(本書69・79ページ)など、ここで使われた疑問は本書のミニコーナーでも扱われており、それから発展して地震の仕組みや絶対零度などの自然現象、リニアモーターカーの理論や科学捜査の仕組みなど、人間の生み出した技術をわかりやすく解説するのは内山作品の醍醐味であります。

2ページでわかるリンドバーグ

 本書の後半は「げんかいにちょう戦した人々!」(本書97ページ)と題し、人間の活動範囲を広げた偉人たちのエピソードを漫画化したものになっています。気球を発明したモンゴルフィエ、飛行機を実用化したライト兄弟、大西洋横断飛行を成し遂げたリンドバーグまで空を飛ぶことに挑戦した人々、また海底を目指した人々など、おのおの4ページ(または2ページ)の漫画で紹介、そのコンパクトさは驚嘆に値します。

 そして北極探検のピアリ、日本人最初の南極探検を行った白瀬矗など地球の極地を目指した人々の中でも、初の南極点に到達したアムンゼン、ではなくその影で悲劇の最期を遂げたスコットを扱っているのは本書の最もシリアスな箇所ではないでしょうか。

この世には、少数のやっ太と多数のデキッコナイスがいる

 「地域プロデュース、はじめの一歩」という本の中で本書が引用されている部分があります。著者・山納樹の経験をもとにしたもので「当時、僕のまわりには、少数のやっ太と、多数のデキッコナイスがいました」「実は裏付けのない自身に基づいて突っ走るやっ太もまた、大いに問題を引き起こす存在なのだと気づいてきました」(「地域プロデュース、はじめの一歩」110ページ)とあるように、今になると慎重に行動するデキッコナイスも必要な存在だった、とも思えてきます。

 もちろん漫画である以上デフォルメされたキャラクター造形であるのは承知の上で、大人になると同じ作品でも捉え方が違ってくるものであります。過去に本書に触れた人も、再び読み返してみると新たな発見が出てくるかもしれません。(Re)

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