コミックマーケットのあのころ

 日本最大の同人誌即売会・コミックマーケット(以下、コミケ)がメディア取材の恒例行事になってからはや幾年。「コミックマーケットのあのころ」(以下、本書)は半世紀前に始まったコミケの歴史を、当事者の言葉で俯瞰する一冊です。


それは「好き」から始まった

 本書は、50年継続しているコミケの歴史に関する言葉を集めたものです。コミケの運営スタッフ経験者や現役で関わる人物たちの座談会をメインに、その成立や規模の拡大、トラブルや感動した出来事などからその歴史を浮かび上がらせる一冊になっています。

 1975年に700人の規模で始まったコミケも、その1000倍の参加者を誇る規模に膨れ上がり、その運営に携わるスタッフも3000人に上ります。その始まりは漫画が好きな同士が寄り集まって情報交換する小規模なもので「スタッフはいなかったというのが正しかったかもしれません」(本書28ページ)とのこと。

コミケ脅威の組織編成

 そんなコミケも参加者が増えて急速に規模が拡大していきます。参加人数が増えれば会場も変わり、イベントの管理手順やトラブルも増えるもの。それに対応する形でコミケ運営も変化しなければなりませんでした。本書では時代ごとの語り部の言葉からその苦労と楽しみがうかがえます。

 特に注目すべきは体調不良時にお世話になる救護室。「医療関係の有資格者がそろっていて、(中略)当然のごとくボランティア」(本書146ページ)の面々が語るのは、規模の拡大に伴って(特に夏コミの)熱中症対応や、託児所、授乳室も兼ねる部署になりながらも、あくまでもコミケを守るために参加するその熱意。

コミケちょっといい話

  本書巻末には多くのスタッフに聞いた体験談が収録されています。そこには様々な事件といかに解決したか(奇跡のような事例も含め)が語られます。多人数のイベントゆえ起こるトラブルと、同じ目的で集まった同士による協力態勢で、見事に解決するさまは小気味いいところ。

 「スタッフ同士で出会って結婚する事例も多々、あります」(本書220ページ)など新たに交流が増えるのもコミケの魅力。「就職活動中に準備会スタッフをやっていると説明したら(中略)採用が決まった」(同236ページ)と、まるで実社会の予行演習の如く評価されるのもコミケゆえでしょうか。

君たちの好きは無敵

 漫画やアニメでもコミケがネタになることがありますが、そこには間違いなくリスペクトが見られます。それはコミケが「すべての表現者を許容し継続することを目的とした(中略)『場』である」(本書15ページ)からで、これほどの規模になってもその信念が貫かれているイベントは世界広しといえどコミケくらいではないでしょうか。

 知ってのとおり、コミケは漫画のみならずアニメ・ゲーム、それ以外にも「好き」なものに情熱を注ぐ人々が集まる場所であります。そこにはある種の社会が生まれ、はたから見るにとても理想的に見えます。もちろん綺麗事だけでは成立しない場所でありますが、そのために様々な人々が必要にかられて動いた結果が半世紀の歴史を紡ぐまでの恒例行事になったのでしょう。

「コミックマーケットのあのころ」おーちようこ 著 コミックマーケット準備会 監修 星海社新書 1870円(税込)

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