まる ありがとう

 解剖学者・養老孟司の飼い猫・まるが天寿を全うしてから時が流れました。映像で残ったその姿は、今でも見るものに癒やしを与えています。「まる ありがとう」(以下、本書)はまるがこの世を去ってから程なく書かれたものです。

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これは、まるの墓碑銘である

 本書は「バカの壁」の著者でもある養老孟司が「この本は(中略)まるの墓碑銘である」(本書172ページ)として、飼い猫だったまるについて書いたものです。2020年12月に最期を迎えたまるはテレビ番組「まいにち養老先生、ときどきまる」で有名になっていました。

 本書では著者による文とともに、まるの写真がふんだんに掲載されています。著者とのツーショットや「どスコい座り」(本書9ページ)と命名されたスコティッシュフォールドならではの座り方、名前の通り丸い後頭部まで、余さずその魅力を堪能できるでしょう。

まるは、自然というものさし

 著者にとってまるとは何だったのか。「ものさしです」(本書64ページ)との答えは、著者が持論としている人間社会に対する疑念と関係があります。それは人工物に囲まれた社会をものにした人間が、自然に触れない生活を送る中でいつしか自らの生み出した常識に囚われてしまった、というもの。

 「とりあえず、私のすぐそばにいて完全に自足している生き物は、まるしかいない」(同103ページ)と語る著者。少なくとも自らの思う通りに生きていたまるは、人間が身近に触れられる自然の一つとして人間社会のしがらみとは無縁な存在であり、そこから著者は生命の本質的な基準を見出していたのでしょう。

まぁくんだって猫である

 本書の写真を撮影したのは著者の秘書である平井玲子。本書には平井によるコラムが挿入されています。まるを「まぁくん」と呼び、著者とはまた違った目線で語る中で、「養老研究所の営業部長」(本書92ページ)としてメジャーになったまるにはある種の男らしさを感じていたそうです。

 また、「先生(著者)とまぁくんの関係は、親子のようでおじいちゃんと孫のようで、とにかく(中略)お似合いでした」(同144ページ)との見方は、写真にいくつも収められた絶妙な距離感の著者とまるの姿が言葉以上に証明しています。

どちらもツンデレ、養老センセイとまる

 先の番組「まいにち養老先生、ときどきまる」では、まるがこの世から旅立つまでの様子が収められていました。そこには持病を抱えながらただ生きたまると、それを肯定しつつ何らかの意味合いを求めながら「現に、まるはそこにいた。それでじゅうぶんではないか」(本書169ページ)と割り切ろうとする著者の姿があったのです。

 そんな一人と一匹に緊密な関係を見てしまうのは人間の身勝手かもしれません。しかし、ツンデレとされる猫のまると、その猫に対して一冊書けるほどの言葉を連ねる著者、どちらもツンデレという意味で対称性を描いていたのは疑いようがないでしょう。(Re)

「まる ありがとう」養老孟司 著 西日本出版社 1320円(税込)

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