有害図書の本

 人の親ともなれば、子供に読ませたい本があれば、読ませたくない本もあります。その選定を他者に任せたくなるのも理解できますが、はたしてそれで良いのでしょうか。「有害図書の本」(以下、本書)は自治体が指定したいわゆる「有害図書」にまつわる一冊です。

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「有害図書」とは、どういうものを指すのか

 本書は「都道府県が条例で定めた(中略)『青少年の健全な育成にとって有害な図書類』」(本書4ページ)について調査したものです。その歴史は長く、戦後間もない時代から現代まで主に出版物が「有害図書」(実際の名称は多岐にわたる)と指定され続けてきました。

 自治体によって多少の差はあれど、おおむね指定されるものは、

  • 性的描写や情報を掲載したもの
  • 残酷描写や犯罪を扱ったもの
  • 殺傷能力がある道具の製法や使用法に関するもの

 などがあり、図書に限らず映画などの興行や危険性のある玩具なども含まれます。

「有害図書」とは、どのように生まれたのか

 先に述べたとおり、戦後間もなく少年犯罪が増加していた折にいわゆる「青少年条例」は制定され始め、80年代には少年犯罪とそれを防止する条例の活動はピークに達します。青少年を非行に走らせないための条例、その理念はもっともな考えに基づいたものであります。しかし「青少年条例が青少年の健全育成にどこまで寄与しているのかは必ずしも明確ではない」(本書33ページ)点を本書は指摘していきます。

 本来は自治体ごとに効力を及ぼす条例ではありますが、国の首都である「東京都で指定されるとめんどくさい」(同45ページ)状況が起きてきます。出版流通の中枢でもある東京都で指定されると販売制限が全国に及び、さらにはネット通販で扱われなくなる可能性まで出てきました。

「有害図書」の規制は、効果を発揮しているのか

 本書では各都道府県の規制状況を調査、規制に積極的な自治体や規制を行ってない自治体など、地域で差があるのがわかります。しかしここ最近共通しているのは、惰性で施行しているような状況。特定の出版社を狙い撃ちしているような指定や、若者が手を出しそうもない出版物を指定するなど、真剣に規制を検討しているのか疑われる活動ぶりがうかがえます。

 さらにその選定に至る経緯はブラックボックスとなっており、「審議会が文書管理規程に反して公文書である議事録を残していなかった」(本書122ページ)状況もあったなど、自治体の住民としては疑問を挟むに十分な環境の中で行われているのが分かるでしょう。

 まさに形骸的な施行がなされてきた「有害図書」規制。廃止には至らないまでも住民や当事者による働きかけで「有害図書」から名称変更を促すなど、その状況は改善がなされつつあります。

願わくは、「有害図書」に指定されないように

 著者たちもその当事者であり、当人にとっては理不尽な扱いを受けた経験があります。電子書籍が流通する現代にあって、紙の本だけを規制するのはもはや時代に即していない証拠でしょう。この状況に疑義を投げかけ、一般に知らしめるのが本書の役割といえます。

 とはいえ本書は堅苦しい内容ではなく各時代での「有害図書」の変遷や当事者たちへのインタビューなど、時にはユーモアを持ち、時には真面目にアプローチしつつ、その滑稽さをあぶり出していきます。これこそ青少年に読ませるにはもったいない一冊かもしれません。

「有害図書の本」永山薫・稀見里都 著 三才ブックス 2200円(税込)

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