日本昭和トンデモ怪獣大全

 その昔、実家の柱に貼られていた怪獣シールの出所がどこなのか、そもそもなんの怪獣なのか長らく謎であったのですが、「日本昭和トンデモ怪獣大全」(以下、本書)を読んで謎が氷解し、喉につかえていたものが取れたようでありました。

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パチモン怪獣総進撃

 本書は1966年に「ウルトラQ」「ウルトラマン」のテレビ放送以降起こった怪獣ブームの中で、映像作品以外に登場した怪獣たちを集めたものです。それらは先のテレビ番組や「ゴジラ」シリーズなどの映画作品とは違い、児童書などで生まれたオリジナル怪獣たちが始まりでありました。メジャーな怪獣の使用権を持たない雑誌がブームに乗って行った苦肉の策ではありましたが、模型化や漫画化などしながら紙面を盛り上げたのです。

 ブームが加熱すればパチモンが登場するのは世の習い。そんなブームを見越したように、ブロマイドなど駄菓子屋の商品に怪獣が登場します。それらは先の怪獣作品を真似たりスチールを切り貼りして作られたようなパチモンの怪獣だったわけで、現在見れば志の低さが目立ってしまいますが「このまま忘れ去られていくだけでは可哀想すぎる」(本書003ページ)との著者の想いが本書に満ちています。

エッチ、スケッチ、水素獣エッチ!

 70年代になり「帰ってきたウルトラマン」「仮面ライダー」など特撮作品が再び盛り返した時代、パチモン怪獣は定番商品として流通していきます。そんな中、70年代オカルトブームを代表する中岡俊哉による著作「世界の怪獣」はオリジナル設定を盛り込んだ怪獣たちを生み出し、トンデモ度合いを深めていきました。

 同様にオリジナルの怪獣を掲載した「怪獣トランプ」はさらなるオリジナリティを獲得、中でも「水素獣エッチ」は「真ん丸なボディからニュッと生えた2本の足。(中略)このフォルムの面白さと、凛々しい顔にキュートな口。なんてラブリーなんだ!」(本書114ページ)と(成田亨でも思いつかないであろう)独自すぎるデザインとツッコミどころ満載な設定を備えた、トンデモ怪獣にふさわしいものでありました。

ウルトラエース…まだまだ謎が多いな

 さて、怪獣ブームの定番商品といえばソフビ人形。当時それを発売していたマルサンは、オリジナル怪獣のソフビ人形も制作していました。映像作品(着ぐるみ)を意識しないで済む分、「後(ろ)膝を曲げてない4足怪獣はレア!」(本書088ページ)など怪獣のデザインにオリジナリティを発揮できたのです。

 怪獣がいるということはそれと戦うヒーローもいるわけで、ソフビオリジナルのヒーロー・ウルトラエースが存在します。名前の通り、ウルトラマンのような仮面にスーパーマンのようなマントを羽織り、胸には当然のように「A」の文字が!見るからにパチモン感漂う出で立ちですが、先に存在していたがゆえ新たなウルトラシリーズのタイトルを「ウルトラマンエース」にせざるを得なかったのではないか、と思われるいわくつきのヒーローでもありました。

怪獣に正統もパチモンもない!

 「金食い虫!それが怪獣もの!!」(本書081ページ)な理由で収束を迎えた怪獣ブームではありましたが、以降のパチモン界隈(?)では特撮ヒーローや「マジンガーZ」に始まる巨大ロボットを元ネタにした商品を発売していきます。本書ではその一部を紹介、ガンプラブームの中で発売された「ザ・アニメージ」や「モビルフォース・ガンガル」まで掲載しています。

 ただ、著者はパチモン怪獣に対し否定的な考えを持っていません。「そのおかげで怪獣をランク付けすることもなく、フラットな目線で幅広く楽しむ感性を得られたと思っている」(同142ページ)と、その存在を肯定しています。パチモン怪獣を新たな目線で楽しむ人も多い中、本書でそのえも言われぬ感性を再認識してみてはいかがでしょうか。(Re)

「日本昭和トンデモ怪獣大全」堤哲哉 著 辰巳出版 1650円(税込)

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