「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で怪獣のデザインなどを担当した成田亨。その名が知られるようになったのはオタク文化が花開いた80年代になってからであります。「特撮と怪獣 わが造形美術 増補改訂版」(以下、本書)はその当人による仕事を語った一冊です。

語られなかった成田亨
学生時代は彫刻家を目指しながら特撮映画の世界へ足を踏み入れ、ウルトラマンや数々の怪獣を生み出した成田亨。その偉業が取り沙汰されることはあっても、当人の思いが伝わることはあまりありませんでした。本書はその数少ない記述の一つであり、四半世紀を経て復刻された一冊です。
本書の冒頭「僕はもう、『ウルトラマン』のお墓をちゃんと作っています。彼は、早く死ぬべきだ、と思っています」(本書10ページ)と始まるのはショッキングであります。自らの思う以上にヒットし、長年にわたってあらぬところに登場するウルトラマンを、生みの親としてはなんとか落ち着かせてやりたかったのかもしれません。
ベムラーからウルトラマンへ
学生時代にアルバイトとして映画「ゴジラ」の美術現場に初めて入った成田は、「ウルトラQ」で「かなりの決断、大決断ですよ」(本書139ページ)と一旦彫刻家の道を捨てる形で特撮美術を担当することになります。続けて「ウルトラマン」を手掛けますが、未知のヒーローであるウルトラマンのデザインに難儀するのでした。
初期段階では怪獣と戦う怪獣「ベムラー」として企画され、「いまだかつてない格好のいい美しい宇宙人」(本書14ページ)と脚本家・金城哲夫のオーダーを受けた成田が極力シンプルなデザインを目指し、理詰めでウルトラマンの姿を模索する経緯が本書で描かれています。
ウルトラ怪獣たちの生まれるところ
成田は、怪獣をデザインするにあたっての三原則を自らに課しています。
- 過去にいた、または現存する動物をそのまま作り、(中略)巨大化のトリックだけを頼りにしない(本書145ページ)
- (前略)人間と動物、動物と動物の同存化合成表現の技術は使うが、奇形化はしない(同146ページ)
- 体に傷をつけたり、傷跡をつけたり、血を流したりはしない(同)
あくまで子供が見るテレビ番組の怪獣である以上、単なる巨大生物やグロテスクなものは登場させられないと考え、「デザインの面白さでいくしかない」(同157ページ)と抽象芸術をヒントに成田は数々の怪獣を作り上げていったのです。
そんな中でもコチという魚の口をモチーフにしたガラモンやダダなど、唇のある怪獣が多いのも成田デザインの特徴。「ピンクの唇をした怪獣が多いというのは、それは僕の好みでしょうね」(同163ページ)と本人も認めているように、不気味なようで愛嬌のある怪獣は成田ならではのものでしょう。
できるなら、一人の芸術家でありたかった
映画よりひとつ下に見られていたテレビ、更に特撮は地位が低かった時代にあって、成田の仕事はその著作権が認められなかった部分もあり、本書でそれに関する恨み言が出てしまうのも無理からぬこと。
しかし「五歳か六歳の男の子が、人形を抱いて歩いているんです。(中略)彼が抱いているものは、『ウルトラマン』という番組(中略)でもなんでもない。彼は僕のデザインだけを抱いている」「僕は『俺の怪獣、売れてるな』という喜びは感じています」(本書249ページ)と自らの仕事には誇りを持っていたようです。
晩年は芸術家としての仕事も達成した成田。「ウルトラマンの生みの親」だけではない彼の姿が、本書には刻まれています。(Re)
「特撮と怪獣 わが造形美術 増補改訂版」成田亨 著 リットーミュージック 2750円(税込)
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