80’sリアルロボットプラスチックモデル回顧録

 デパートのおもちゃ売り場でガンプラだけ消えていた風景を見た人はもうアラフィフだと思われますが、それが起こった80年代をもう一度思い起こさせる一冊が「80’sリアルロボットプラスチックモデル回顧録」(以下、本書)であります。

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画像なし!で送る回顧録

 本書は80年代に起こったガンプラブームに始まる、リアルロボットアニメに合わせて発売されたプラモの過熱ぶりを語るものです。当時はガンプラのバンダイ(当時)の他にも各社からプラモが発売されており、まさに群雄割拠の状況を呈していました。それも84年にはブームを牽引したMSVの終焉とともに儚く終わるのです。

 本書では対談形式でその変遷を語っていきますが、権利の問題ゆえ参考となる画像は入っていません。しかし「かつての(中略)ブームを総括し回顧した(中略)書籍の刊行はこれが『最初で最後』だと思うため」(本書7ページ)貴重な一冊には違いありません。

あれもリアル、これもリアル、たぶんリアル

 この時代の特徴といえば「リアル」という言葉にこだわっていた部分でしょう。81年、模型雑誌別冊「HOW TO BUILD GUNDAM」の登場は、アニメの再現ではなくミリタリーモデルの方法論にのっとった渋い配色・マーキング・汚し塗装などを駆使するガンプラの仕上げをスタンダードにしたのです。

 それはメーカー自らが渋い成形色とデカールを封入した「リアルタイプ」を生み出し、ほとんどのロボットプラモを「リアル」に染め上げることになります。しかし「伝説巨神イデオン」の重機動メカなど「いわゆる《リアル》に仕上げる方法が全然分からない」(本書42ページ)ミリタリーモデルテイストが適用できないメカのほうがまだ多かったわけで、自然と「リアル」の意味を履き違えた珍品が増えていきました。

リアルロボットプラモの真実は見えるか?

 その一方81年の「太陽の牙ダグラム」を皮切りにいわゆる「リアル」を見据え、プラモをメイン商品としたテレビアニメが制作されるようになります。この頃には「戦闘メカザブングル」「超時空要塞マクロス」などが同様の商品展開を見せ、ガンプラから始まるキャラクターモデルの技術革新が目覚ましい勢いで進んでいきました。

 そんな中メーカーの開発力を大きく上回るコンテンツの増加につれ、作品放送期間内(平均1年)では登場メカの商品化が間に合わない状況が表面化してきます。先の3作品の後番組「装甲騎兵ボトムズ」「聖戦士ダンバイン」「超時空世紀オーガス」それぞれにおいて未発売に終わったメカは少なからずあり、ユーザーにとっては不満が募るものでした。

 それでもなおリアルロボットアニメのプラモに参入するメーカーは跡を絶たず、供給過多の末「’84年と’85年のあいだには(中略)ブーム終焉の境界線が存在していた」(本書228ページ)程に急速な市場の縮小が訪れることになります。

初めてガンプラを作ってくれたおじさんたちに感謝!

 本来ユーザーの要望を取り入れたがゆえのガンプラ商品化ではありましたが、それがここまで拡大するとは開発者だけではなくユーザー自身も予想しえない事態だったのでしょう。結果的に不発に終わった商品も多かったものの、メーカーが真摯にユーザーに向き合ったからこそのブームだったのかもしれません。

 結果的にバブルとしか言いようのない道のりをたどった80年代プラモ界隈。しかしこれが以降の商品開発に大きな影響を与えたのは言うまでもありません。あれから40年を過ぎた現在ではその実像を掴むことは難しい状況でもあります。その意味でも本書の存在意義はあるのではないでしょうか。(Re)

「80’sリアルロボットプラスチックモデル回顧録」あさのまさひこ・五十嵐浩司 共著 竹書房 2200円(税込)

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