テレビ番組で「新世紀エヴァンゲリオン」や「SPY×FAMILY」などの音楽が流れるのはそう珍しくもありません。「劇伴音楽入門」(以下、本書)は映像作品で流れる音楽、いわゆる「劇伴」に注目し、その魅力を伝える一冊です。
劇伴は、作品の添え物ではない
いわゆる「名作」とされる映像作品では、それを象徴するような音楽がセットで想起されるでしょう。本書では「劇伴」とは何なのか、映画の添え物としかみなされなかったところから始まる歴史とその独自性を日本のアニメと映画を中心に語っていきます。
映画やアニメなどで流れる「BGM」や「サウンドトラック」とも呼ばれる音楽はかつて「劇伴」(げきばん)と呼ばれ、あまりいい意味では使われていませんでした。しかし昨今では再びその名が使われるようになり、名だたる音楽と肩を並べる存在として注目されています。
劇伴が独立した音楽となった時代
海外の映画では作品と音楽が相互補完するように進化してきました。こと日本においては戦後エンターテインメントの主流が映画からテレビに移行するにつれ、(作品の屋台骨として)音楽の可能性を追求した作曲家が様々な形で試行錯誤を行うようになります。
それが形を成し始めたのは70年代から80年代にかけて。当時は、劇伴が独立した音楽とみなされるようになった時代、言い換えれば劇伴が商品価値を持った時代であります。特に「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」などの人気アニメで劇伴がレコードとして商品化され、人気に拍車をかけたのは一つの事件でありました。
なんでもあり!劇伴の作曲家たち
本書では数々の作品名とその劇伴を担当した作曲家の名前が列挙されています。「ジャングル大帝」の冨田勲、「ウルトラセブン」の冬木透、さらには菊池俊輔、渡辺宙明、宮川泰、久石譲、田中公平、菅野よう子などなど錚々たる名前が並び、それぞれが曲に込めた新しい試みをあげています。
クラシックからロック、ジャズや民族音楽まで、劇伴にはこれという形がなく、なんでもありの自由な世界であります。それゆえ作曲家たちの実験場という側面もあり、劇伴をたたき台として作品の内容が決まったり、逆に最小限の形にする劇伴も出てきたりと、作品との関係性も様々な曲が作られていきました。
劇伴の脳内再生、余裕です
自他ともに認める劇伴マニアの著者が綴った本書。コラムで自らの仕事、サウンドトラック・アルバムの構成を語っています。作曲家の仕事が注目される一方、それを商品の形にする構成についてはあまり知られていないこともあり、その意味でも貴重な一冊かもしれません。
そんな本書では要所要所で曲のイメージを言葉にしようとしているさまが感じられ、(知っている曲ならば)読者の脳内にそのメロディーが流れるかもしれません。たとえ知らなかったとしても、どこかで聞いたことのある(であろう)曲が扱われており、改めて知るきっかけになるでしょう。
「劇伴音楽入門」腹巻猫 著 集英社インターナショナル文庫 1155円(税込)