特撮番組では、現実でありえない現象が頻発します。エンタメと言ってしまえばそこまでですが、なぜそれが起きるのか考えてみるのも無駄ではありません。「特撮の地球科学」(以下、本書)は特撮好きの学者が真面目に特撮を考察してみた一冊です。

ゴジラが移動する場所には理由がある
本書は古生物学者の著者・芝原がバンドメンバー・大内との対談形式で特撮作品を考察したものです。著者は「地球の中身や歴史について考える学問」(本書3ページ)地球科学の視点で「特撮作品の画面に写っていることはすべて『事実』と捉える」(同5ページ)ルールにのっとり、特撮における理屈を考えていきます。
例えば「ゴジラ」シリーズでゴジラが移動する地域にある種の法則性を見出し、「初代ゴジラは、地盤の浅いところを縫うようにひたすら歩いている!」(同61ページ)と結論付けます。もちろんオフィシャルな設定ではなく著者の考えですが、実際の地球科学にのっとった考察であり、専門家だからできる知的遊戯といえましょう。
ウルトラマンは進化(?)している
また、出版当時は公開前で情報が少ないながらも「シン・ウルトラマン」(以下、「シン」)の考察にも挑んでいます。同映画において、成田亨のデザインをリスペクトしたウルトラマンは胸にカラータイマーがありません。その理由についても「太陽エネルギーがすさまじく降ってくる星であればそもそもカラータイマーはいらない」(本書149ページ)との理論を展開します。
さらにウルトラマンのマスクにあるのぞき穴を「黒目」と解釈し、近年のウルトラマン(「シン」も含む)にそれが消えた理由を「黒目がなくなったのは、バージョンアップが原因!」(同157ページ)として、ウルトラマン一族が代替わりするたびにその体も「進化というよりは改良」(同)しているのではないか、としています。
特撮の聖地、栃木県
仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズなど、特撮番組でロケ地に使われる定番の場所は少なからずあります。さらに本書では「特撮三大いつも聖地」(本書166ページ)と呼ばれる場所について考察、そのうちの2つは栃木県に存在し、なぜそこで戦うことになるのか解説しています。
石切り場で戦うのも、神秘的な場所がいつも同じなのも、学園都市がしばしば現れるのも、そこには(決して撮影の都合ではなく)合理的な理由があり、「栃木はすべての特撮時空につながっている!」(同170ページ)とのトンデモない結論に達してしまいます。
地球は特撮の星
そんな特撮作品の設定はシリーズが進むに連れ、つじつまを合わせるのが難しくなってしまいます。そこで便利な設定が多元宇宙(マルチバース)。先の「シン」が旧作の「ウルトラマン」とは別の世界に存在すると仮定すれば矛盾はなくなりますが、それを使ってもウルトラシリーズを包括するには世界が広がりすぎており、著者がそれをまとめる苦労が本書でうかがえます。
さらに他の特撮作品も絡めた年表も公開、古生物学者の著者からすればヒーローが活躍する時代は地質学的にごく最近の出来事になりますが、古生代の昔に存在した生物が現代に復活していたりするので、特撮作品で扱われる歴史は意外に(地球的に見ても)古代まで遡ることになるのです。
繰り返すように本書の理論はあくまで著者による解釈に過ぎず、本来矛盾や間違いも多くある特撮。それゆえ逆説的な意味で「地球は特撮の宝庫!」(本書330ページ)なのでしょう。(Re)
「特撮の地球科学」芝原暁彦 大内ライダー 著 イースト・プレス 1870円(税込)