特撮番組の金字塔「ウルトラセブン」。その人気を構成する要素として音楽は欠かせません。「ウルトラ音楽術」(以下、本書)はその作曲を担当した冬木透にインタビューし、その源泉と仕事の取り組みについて語ってもらった一冊です。

「ウルトラセブン」から始まる音楽人生の転機
本書は2024年に逝去された作曲家・冬木透にインタビューした内容をまとめたものです。「ウルトラセブン」(以降、「セブン」)を皮切りに「太陽の牙ダグラム」などのアニメ音楽も手掛けた冬木に、その生い立ちから音楽家としての仕事についてまで語ってもらった一冊となっています。
満州生まれの冬木は帰国後音楽家を志し上京、(のちの)TBSに入社し音楽大学との掛け持ちをしながら番組内の音楽や効果音などを担当していきます。大学卒業後、TBSから独立して作曲家の仕事を始める中、その流れで出会ったのが「セブン」音楽の依頼だったのです。
「冬木透」の名を借りて
さて「冬木透」の名前はペンネームであり、本名の「蒔田尚昊(まいたしょうこう)」名義の曲も多くあります。そんな冬木の代表作が「セブン」であることには違いないのですが、当時としては珍しく音楽だけにとどまらず選曲、効果音まで関わる「音響監督」の役割を担当していたことが本書で語られています。
「作品の監督や関係するなるべく多くの人に会って話を聞く」(本書86ページ)スタンスを貫いて仕事に望んだ冬木。それでも1年続くドラマの音楽を作るには支障がつきもので、すでに録音した楽曲がシーンに合うとは限らず、どうしても従来の曲が使えない状況が出てきました。
史上最大のシューマン
その最たるものが「セブン」最終回のシーン。その重要な場面に合う音楽が見つからず、シューマン作曲「ピアノ協奏曲」を採用するまでの経緯を本書で詳しく書いており「限界はありましたが、何回かやり直しながら最善を探っていったと記憶しています」(本書132ページ)と述懐しています。
「私の作曲の根幹にクラシック音楽があること」(同170ページ)が冬木の持ち味であり、常に最新の音楽を取り込んでいった渡辺宙明と対象的であります。本書後半ではそのクラシック音楽について著述されており、その創作の秘密と先人に対する想いが明らかになります。
ワンダバの星、輝くとき
「セブン」以降の「帰ってきたウルトラマン」で、「MATのテーマ」として作曲されたものはそのコーラスから「ワンダバ」の名で有名になり、後のシリーズで欠かせない楽曲となりました。本書でその成立過程も明かされ、「セブン」に限らない仕事の一端がうかがえます。
ともあれ「ウルトラ」シリーズに欠かせない多くの名曲を世に残した冬木。「私があの世に行ったら最初にシューマンとリパッティにごあいさつに行かないとなりません」(本書136ページ)との願いがかなっていることを祈らずにはいられません。(Re)
「ウルトラ音楽術」冬木透 青山通 著 集英社インターナショナル新書 924円(税込)