「世界の裏では強大な存在がこの世を支配している」という設定は、創作物ではメジャーなものです。「陰謀論の教科書 近現代史編」(以下、本書)は現実で囁かれる陰謀論を足がかりに、近現代史を俯瞰する一冊です。
陰謀論で見る歴史
本書は20世紀から21世紀初頭までの世界で起こった事件と、そこで囁かれた陰謀論をまとめる形で歴史の流れを俯瞰するものです。2度の世界大戦と終結後の冷戦に加え、ソビエト共産体制の崩壊による冷戦終結以後も、新たな火種を抱えた激動の世紀を超え、現在に至るまで様々な事件が世界を揺るがしました。
本書では、史実に続いてそれに関する陰謀論が解説され、論拠があれば否定し、不明瞭の場合でも何がわかっていないのかを示しています。それだけ事件の真相は謎に包まれており、それを補完しようとした結果、陰謀論になるのは仕方がない部分もあります。
謎のあるところ、陰謀論が現れる
その中にはタイタニック号沈没事故やケネディ大統領暗殺など有名な事件が含まれますが、やはり前半は日露戦争を始め、第一次世界大戦、第二次世界大戦と戦時下に起こった事件が多くあります。本書ではそれが起こった理由を詳しく解説しており、その中で陰謀論が生まれる余地が出てくるのは否定できません。
戦後になっても三億円事件やグリコ・森永事件など、未解決に終わった事件がありました。そこには様々な説が入り乱れ陰謀論と呼ぶべき解釈も出てきますが、真相がわかっていない以上それを否定することも難しく、不気味さだけが残ります。
さすがにそれは…な陰謀論
そんな陰謀論の中でも、「それは違うだろ」とツッコミたくなるトンデモなものがあるのも事実。「インベーダーゲームは日本の生産力を低下させる目的でユダヤ人が開発した」(本書152ページ)という説は「コンピューターゲームに興味のない層からは(中略)どこか胡散臭いものと見られた」(同)心理から発せられたものと考えられます。
東日本大震災に限らず、大地震が起きるたび「大国が開発した地震兵器によるもの」(同228ページ)という陰謀論が出てくるものです。先のゲームにせよ、よく分からないものに対して理屈をこしらえて安心しようとする心理は理解できなくもないですが、それに飛びついてしまうのはいかがなものでしょうか。
実は本当だった?陰謀論
本書の中ではコラム扱いで、陰謀論と見なされながら後に真実が明かされた事件も紹介しています。これらを見ると、国家同士の駆け引きの中で隠されてきたものが多く、現代に至るまでの社会情勢が様々な問題を抱えているのが見えてきます。
ともあれ陰謀論が立ち上がるほど、社会に影響を与えた事件が歴史を作ってきたのも事実。単純に陰謀論を信じるのではなく、そこにどういう事情が絡んでいるのかを読み解くのが重要であることを、本書は教えてくれます。
「陰謀論の教科書 近現代史編」関眞興 監修 辰巳出版 1760円(税込)
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