少なくとも、商品化されるフィギュア原型のほとんどが3Dプリンターで出力されるデジタル造形による方式に移行しています。「タナベシンのフィギュア造形ガイド」(以下、本書)は、それ以前の手作業による原型制作を網羅した一冊です。
デジタル造形に逆らうがごとく
本書は、フィギュア原型師・タナベシンによる造形手法の解説書です。リアルなものからキャラクターものまで多種多様な造形をこなす著者は、商業原型に耐えうる確かな技術を持ちます。本書ではその制作から仕上げまで逐一写真を掲載、そのノウハウを詳らかにしていきます。
先に述べたとおりパソコン上で3Dデータを作成し、プリンターで出力するデジタルモデリングが主流となりつつある現在、手作業でフィギュアを制作する行為は趣味の領域になっていくのでしょう。本書にはそのアナログな製法を記録に残す意味合いもあります。
素材は粘土に限らない
著者は主に、焼成させて硬化する粘土・スカルピーを用いて造形します。焼き固めるまでは自由に形を作れる特性を活かし、納得行くまで作業ができるわけですが、著者は既存の工具だけではなく自作の工具を使って精度の高い造形をこなしています。
硬化したあとでも修正するためプラモで使うようなヤスリやナイフなどの道具を使って作業する中、パーツ同士を接続するダボを作るときなどには市販のパテを使って造形します。既存の立体造形と変わらない素材も使いこなすさまは著者の卓越した技術が感じられるでしょう。
それでも型取りと塗装はやらねばならぬ
そして作るのが原型である以上、複製したものを用いて塗装しなければなりません。そこでガレージキットで使われるシリコンを使った型取りとそこにレジンを流し込んで複製する方法も本書で収録しています。これも40年ほど前から連綿と続く手法の一つといえるでしょう。
いくらデジタル造形が進んでも、今のところ塗装方法はあまり変わりありません。著者はあまり塗装はしないようですが、これまたプラモで使うような道具と塗料を用い、自作を仕上げていくさまを本書で収録しています。著者の「行き当たりばったりなので(中略)未だに確立していない」(本書065ページ)塗装法で仕上げた作品はとてもそう思えない出来であります。
手原型は滅びゆく運命なのか
本書には植物少女園/石長櫻子などの造形作家、塗料会社ガイアノーツの企画担当者など、著者に関連する人物へのインタビューが掲載されています。そこにはクライアントの意向を遵守しつつ、それを超えてくる圧倒的な造形力が基調としてあり、本書の企画にふさわしい人物なのがうかがえるでしょう。
本書巻末の著者と現在を代表する造形作家との座談会の中で「今後この本のノウハウは役立たないよっていう」(本書127ページ)著者の言葉は、抗えない時代の変化と同時に残しておくべき超絶技巧の記録として、本書を定義するものなのでしょう。
「タナベシンのフィギュア造形ガイド」タナベシン 著 大日本絵画 4290円(税込)