「タローマンなんだこれは入門」の元ネタは、昭和に出版された児童誌のグラビアでした。それらは輝かしい未来や絶望的な恐怖などが入り乱れて当時の子どもにインパクトを与えたのです。「別冊太陽 科学と怪奇の空想大全」(以下、本書)はそんな当時のイラストを集めたものです。
昔、児童誌はパワフルでデタラメだった
本書は、1960年代から70年代までに出版された児童向けの出版物に掲載されたイラスト記事を収録したものです。当時の雑誌や図鑑にはイラストで子どもの興味を引く記事が看板企画としてあり、そこには想像力をかき立てる刺激的な異世界が開けていました。
本書の冒頭にはそのビジュアルを担当した主要なイラストレーター(本書では「絵師」)と、代表的な記事の仕掛け人・大伴昌司が紹介され、パワフルでデタラメな創作の源が垣間見られます。読者である子どものためとはいえ、その期待を遥かに凌駕するエネルギーは現代においても(別の意味で)驚かされるでしょう。
ユートピアとディストピア、よろしく…ねっ!
さてその内容というと、70年大阪万博が開催されるまでは科学技術の発展による未来像が主な主題であり、スーパーメカが切り拓く生活圏の拡大や、ロボットが日常に溶け込んだ社会などが描かれました。ロボットのデザインに当時らしいおおらかさが見られるものの、技術が発展した現代では意外に身近な主題といえるでしょう。
そんなユートピアだけではなく、科学技術発達の果てにコンピューターが政治の中枢を占め、人間の生活が監視される超管理社会のディストピアが描かれていたりもします。さらに隕石の衝突や地球環境の悪化による人類の滅亡が示唆されるなど、現代では現実味のある問題も半世紀前の当時はSFの範疇に入るエンタメであったわけです。
怪奇特集という名のメディアミックス
70年代に突入すると「ゲゲゲの鬼太郎」などによる妖怪ブームが起き、それと並行して幽霊や怪現象などを扱うオカルトブームも起こります。当然児童誌にもそれらをイラスト化して紹介し、妖怪の第一人者・水木しげるや、怪奇画を得意とする石原豪人によるものが紙面を飾りました。
そこには心霊現象やUMA、UFOなどの定番情報だけではなく、小栗虫太郎や香山滋による秘境冒険小説のビジュアライズや「ハエ男の恐怖」「戦慄!プルトニウム人間」などの海外SF映画をもとに描かれたイラストのように、メディアが限定的だった時代に行われたメディアミックスというべき企画もあったりします。
イルカが攻めて…こないぞっ!
「現在の子ども向けメディアでは絶対に実現不可能」(本書128ページ)な企画が目白押しだった当時の雑誌記事。中にはサイクリングと即身仏を組み合わせた「大伴昌司が手掛けた珍企画」(同162ページ)もあり、そのトンデモなさがうかがえます。
ただ、本書ではそんなトンデモないイラストの代表作である「高度な知能を獲得したイルカが人類を蹂躙・支配する」(同11ページ)様子を描いた「イルカがせめてきたぞっ」が、部分的にしか収録されていないのが惜しまれるところ。
「別冊太陽 科学と怪奇の空想大全」別冊太陽編集部 平凡社 2750円(税込)