ネット上には「科学に基づいた」とされるまことしやかな情報が転がっています。それらはなぜ生まれてくるのでしょうか。「『科学的に正しい』の罠」(以下、本書)は「科学」が容易に「疑似科学」に変わるからくりを解説したものです。

「科学的に正しい」とは?
本書は進化生物学者である著者が、科学的に導き出される「正しさ」がいかに脆弱かを語る一冊です。「科学の結論は常に暫定的だ」(本書3ページ)と語るように、科学での発見は絶対的なものではなく、以降の研究によって覆される可能性を常に持っています。
しかし、発見されたものが「正しい」として世間一般に広まり、社会に悪影響を与えることは往々にしてあります。いわゆる「疑似科学」として喧伝されるものは絶対的な「正しさ」を売りにして人々の間に浸透していくものですが、その「正しさ」は誰が決めるのでしょうか。
過去に起こったトンデモ科学の蔓延
その具体的な例として本書でまず語られるのが、旧ソ連で起きた科学の誤用であります。「共産党とメディアが一体となったプロデュースにより躍進を遂げた」(本書60ページ)ルイセンコを中心とする科学理論は、利益をもたらすどころか意に沿わない科学者の弾圧によって国家の衰退を招きました。
しかし、これは過去に限った問題ではありません。現代の社会でも、科学的とはいえないスローガンを掲げる政党は世界中に存在し、その「正しさ」を主張して国家の運営に関わっているのです。彼らが国民の支持を得て表舞台に躍り出る可能性は決してゼロといえないでしょう。
人間は科学に価値を見出す
また、科学的用語「カンブリア爆発」が地球の歴史から見れば人類の歴史に比べて遥かに長い期間の出来事だったにも関わらず、「爆発」という言葉に引きずられてあたかも瞬間的事象として一般的な解釈をされているように、人間の認識にはどうしても偏向的な部分が出てくるのです。
それは研究者でも変わりません。本来ならば中立であるべき科学であっても、個人に備わっている価値観は人それぞれであり、科学がどう社会の役に立つかの判断がそれに左右されてしまうのは避けられないのです。それゆえ先に触れたように、科学が国家のイデオロギーに利用されてしまう事態も無理からぬこと。
口当たりの良い「科学」に騙されないために
著者の専門分野である進化生物学でも、進化の仕組みは完全に解明されているわけではありません。「私たちが(中略)正しいと固く信じている考え方は、(中略)あとで劣悪な科学の温床になるかも」(本書286ページ)しれない危険性は、科学につきまとう問題であります。
「事実と価値/価値判断の混同」(同248ページ)がその原因である科学の誤用を防ぐためには何が必要なのか。「正しさのためには自らの価値観を語らなければならない」(同280ページ)と著者は説きます。そして数多くの意見を突き合わせ、できる限り科学で導き出された事実を中立なものにする環境が構築されなければなりません。
「科学的に正しい」の罠 千葉聡 著 SB新書 1100円(’税込)