ネガティブクリエイティブ

 2022年に放送された「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」(以下、「タローマン」)は芸術家・岡本太郎の作品が昭和特撮番組のテイストで登場するでたらめな番組でした。「ネガティブクリエイティブ」(以下、本書)はそれを作った人物が創作に対する方法論を語った一冊です。

ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる税込1,760(2024/07/08時点)

君はネガティブを持っているか

 本書は「タローマン」NHKEテレ「ミッツ・カールくん」など妙なコンテンツを創り出すクリエイターが、自分の仕事を振り返りながら創作の秘訣を語るものです。でたらめな作風からとても面白い人物か、と思いきや「ぜんぜんおもしろくない人間なのです」(本書3ページ)と自らを語ります。

  しかしながら「つまらない常識人間というネガティブが、おもしろいものを生む」(同16ページ)と主張し、「おもしろさとは、世間の“常識”や“普通”からいかにジャンプするか」(同17ページ)であり、常識を持つからこそそこから外れるさじ加減が測れるのだ、としています。

ネガティブだからこそ見えるものもある

 本書では、あまり良い意味では捉えられない「ネガティブ」という要素をどう創作に活かすか、に注力しています。「つまらない作品のアラ探しをしておもしろい作品に嫉妬することも意味がある」(本書59ページ)など、すぐに使えそうな考え方も参考になるかもしれません。

 ただ「ネガティブ人間とポジティブ人間のバランスを取る」(同128ページ)との言葉どおり、ものづくりにはポジティブな人物とネガティブな人物どちらの力も必要で、人数のバランスを取ることが作品の質の安定につながると語っています。

「TAROMAN」は、わしが作った

 もはや著者の代表作といえる「タローマン」。本書でもその制作コンセプトが述べられており、「極論を言えば、笑わせなくたっていいのです。僕の根っこにあるのは『変な世界を作りたい』ということ」(本書136ページ)で、まじめに変な世界を作ることが重要で、笑いを取るのは結果でしかありません。

 「『TAROMAN』をつくっていたときは、ほぼ同時に公開予定であった「シン・ウルトラマン」を勝手にライバルとして意識していました」(同181ページ)と目標設定をとてつもなく高くすることで、それに追いつかないにしてもクオリティの向上に寄与できると著者は考えています。

怪奇ネガティブ男の大作戦

 本書はいわゆるビジネス本の部類に入るものですが、著者によるイラストがハードルの高さを払拭してくれます。そこでの自画像が「おしりたんてい」の「かいとうU」のような頭で描かれているのは「この(プロフィール)写真を見ても(中略)おもしろがってくれるような人と仕事をするため」(本書218ページ)の延長にあるからです。

 「『まあまあできる』くらいの武器をいくつか持っておくこと」(同189ページ)の一つである、イラストで描かれたネガティブ男が仕事をしたり、子育てをしたり、河原で塗装をしていたりする姿は著者の考えを楽しく伝えており、ネガティブに陥りがちの人々に希望を与えるかもしれません。

「ネガティブクリエイティブ」藤井亮 著 扶桑社 1760円(税込)

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