僕らの好きなMSXハードカタログ

 80年代前半の子供には、ファミコンを買ってもらうか、MSXを買ってもらうか、それが大きな問題でありました。「僕らの好きなMSXハードカタログ」(以下、本書)はそんなMSXのハードを網羅した一冊です。

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僕らの好きなMSXハードカタログ (G-MOOK) [ 前田尋之 ]
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家電メーカー連合が選択したMSX

 本書は「MSXパーフェクトカタログ」(以下、前作)の続編です。前作がゲームソフトを中心としたのに対して、本書は各社から発売されたハードウェアを掲載しています。1983年に発売されたMSXは共通規格であるがゆえに、複数のメーカーから特徴的なパソコンが生まれました

 80年代初頭、各家電メーカーは独自規格でホビーパソコンを開発、乱立状態の中シェアを獲得したのはNEC、富士通、シャープの3社でありました。それに対抗すべく日本家電メーカーのほとんどが参加する形で共通規格のMSXに注力し、シェアの奪還を試みたのです。

ワープロから音楽まで、個性あふれるハード一式

 本書に掲載されているMSXハードのほとんどがキーボード一体型の本体、モニターとして家庭のアナログテレビと接続可能、カートリッジスロットを内蔵するなど、家庭用ゲーム機を意識した廉価版パソコンとして設計されています。「目標はすべての家庭に入り込めるホームコンピューター」(本書004ページ)ゆえの仕様といえるでしょう。

 しかしワープロに特化したナショナル(パナソニックの前身)、音楽関係の外部機器に対応したヤマハ、レーザーディスクを制御する機能を持たせたパイオニア、自社製パソコンとの連動をうたった富士通など、メーカーごとに特徴のあるハードが作られました。当時パソコンがある種のブームであったとはいえ、他の家電並みにこれほどの種類が市場に出回ったのは稀有な現象だったといえます。

アイドルからフィギュアへ、MSXのプロモーション

 さて本書ではハードだけではなくその販促に使われたカタログも掲載されています。MSX初期にはソニーの松田聖子、日立の工藤夕貴、ビクター(当時)の小泉今日子など、80年代を象徴するようにアイドルの写真を用いたカタログが目立ち、カジュアルなイメージで売り出しているのがうかがえるでしょう。

 しかしMSX2が主流になり、ゲーム機として売り出すようになると様相が変わってきます。ソニーは(模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」のオリジナル企画で、後にOVA化された)「ガルフォース」のフィギュアを用い、パナソニックは(オリジナル模型シリーズ「マシーネンクリーガー」の生みの親)「横山宏デザインによる緑色の亜人戦士アシュギーネを起用」(本書030ページ)し、マニア向け路線に転換しました。

ゲーム機とパソコンのはざまで

 90年代に入ると先のソニーとパナソニックだけがMSXの生産を続け、ほどなく新規格「MSXturboR」を最後にその使命を終えます。その頃にはパソコンと家庭用ゲーム機のすみ分けが進み、もはやMSXの存在意義は失われたといっても過言ではありません。

 しかし、結果的に他3社に負けないシェアを獲得したMSXの存在は決して無視すべき事柄ではないでしょう。ゲーム機でコンピューターに親しんだ子供にとって手の届くパソコンであり、前作でも紹介された通り世界中でパソコンの普及に一役買った偉業は語り継がれて然るべきではないでしょうか。

「僕らの好きなMSXハードカタログ」前田尋之 監修 ジーウォーク 2750円(税込)

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