水木しげる漫画大全集001 貸本漫画集1 ロケットマン他

 つい最近終了したアニメ版「ゲゲゲの鬼太郎」第6期。その中の一本に妖怪が漫画を描くという話があり、そのタイトルが「ロケットメン」。水木しげる漫画デビュー作のオマージュであることは明らかですが、そういえば「ロケットマン」がどういう漫画だったか、よく知らないのでありました。

 というわけで「水木しげる漫画大全集001」(以下本書)を読んでみたわけです。

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デビュー作はヒーロー物…か?

 突然日本の空に「第二の月」が現れ、市民が不安に思う中、対策会議で意見を戦わせる二人の科学者、上津戸(うえつと)博士と怒雷(どらい)博士。結局上津戸博士が単身ロケットで「第二の月」を調査することになったのだが、そのロケットは地上に墜落、現場に向かった怒雷博士と上津戸博士の息子、新一が見たものは変わり果てた上津戸博士の姿だった。

 実は、宿敵である上津戸博士を葬るために怒雷博士がロケットに細工し、帰還できないようにしていたのだが、予想を超えた結果に立ち会い、怒雷博士は証拠隠滅とばかりに上津戸博士の肉体を回収、海底にそれを沈める。ところが、ロケットの中で謎の宇宙生命にとりつかれた上津戸博士は、海底でもなお生きていたのだ。博士の体は海の生物を取り込み、巨大な姿に変容していく…というのが「ロケットマン」序盤のあらすじです。

 それ以降は、巨大生物(以降グラヤと呼称)になりながらも心を失わなかった上津戸博士と新一の親子関係と、グラヤに対抗すべく動く悪漢・怒雷博士の奮闘を中心に物語は進んでいきます。

 それで、ロケットマンはいつ登場するのかというと…実は終盤にならないと出てきません。しかもデウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)のごとく、物語を終わらせるためだけに登場します。そんなわけで「ロケットマン」は、ヒーロー物を期待して読むと盛大に肩透かしを食らってしまう漫画なのです。

水木しげるエッセンス満載の傑作漫画

 そんな「ロケットマン」、つまらないかと言えばそんなことはなく、むしろデビュー作にしては非常に完成度の高いものになっています。

 「デビュー作には作家の全てが詰まっている」などと言われますが、この漫画はまさに水木しげる作品の特徴が随所に見られます。

1.確かな画力
 水木しげるの絵の特徴といえば、独特な造形のキャラクターと点描といえるでしょうが、「ロケットマン」ではまだ貸本漫画の絵柄の域を脱していません。しかし、のちの作品につながる要素がすでに見受けられます
 たとえば、巨大生物グラヤの体表にある模様などは点描で描かれており、さらにグラヤと戦うために作られた巨大ロボット、ネオ・ドライのデザインはどちらかといえば愛嬌のあるものでありながら、書き込まれたリベットやタッチのおかげで妙に説得力があります。
 これに限らず、本書に収録されているグラビアに描かれた宇宙船など、単純な線ながらメカ描写には独特の味があります。

2.脱力系のノリ
 「ロケットマン」はシリアスなストーリーでありながら、二人の博士の名前がウェット&ドライだったり、登場人物の台詞が所帯じみていたり、新一が研究しているひょうたんから抽出した物質が「ヘウタリウム」だったり、所々に呑気というか、とぼけたノリの箇所があります。これこそ水木作品の特徴で、作品にちょうどよいアクセントをつけています。

3.どこに向かうかわからないストーリー
 先に挙げたあらすじだけでは伝えきれないほど、この作品のストーリーはあらぬ方向に進み、まさに奇想天外。それゆえ生まれる心地よい疾走感が読者を没入させ、一気に読ませてしまうのです。

「ロケットマン」だけじゃない!水木版アベンジャーズ

 本書は大全集と付くだけに、「ロケットマン」の他にも貸本時代の作品が収録されています。そのどちらもアメコミを参考としたのか、ヒーロー物ですがそこは水木しげる、一筋縄ではいかない漫画になっています。

  • 伸縮自在の体を持った人造人間が登場する「プラスチックマン」(「超絶倫人ベラボーマン」かな?)
  • 宇宙からやってきた小さな超人が大活躍!「ベビーZ」(「ミクロマン」の元ネタか?)

 の二本が収録されており、「ロケットマン」と同じく、前掲の三要素を盛り込んだ水木しげるらしい漫画となっています。特に「ベビーZ」は未完となっているのが惜しまれます。(本当にいいところで終わっている!)

「赤電話」って、結局何?

 本書の最後に収録されている「赤電話」という漫画は「何らかの事情で途絶していた未完原稿をデビュー前の水木が書き継いだ」(本書368ページ)作品ということで、「ロケットマン」以前に水木しげるが携わった漫画ということになっています。

 中身は、兄弟探偵が殺人事件の真相を探るというアクション物になっていますが、後半は水木しげるが漫画の文法を知らなかったのか、非常に読みづらいところがあります。とはいえ、この作品で漫画の習作をしたからこそ「ロケットマン」の完成度が上がったといえるでしょう。

 というわけで、「ゲゲゲの鬼太郎」や「悪魔くん」でしか水木作品を知らない人にこそ読んでもらいたい、水木しげるのルーツを記した一冊であります。

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