新版 アニメーション作画法

 80年代は、アニメブームによって宮崎駿、安彦良和などアニメーターが注目され始めた時代でした。そのうちの一人、湖川友謙がアニメーターを目指す人に向けて執筆したのが「新板 アニメーション作画法」(以下、本書)であります。

新版 アニメーション作画法 -デッサン・空間パースの基本と実技-税込3,080(2024/09/02時点)

(本記事は85年に発行された創芸社版を参考にしている旨、ご了承のほどを)

湖川友謙が指南する

 本書は「伝説巨神イデオン」「聖戦士ダンバイン」などでキャラクターデザインを担当した湖川友謙(こがわ・とものり)が書いた、アニメーターに必須の知識を詰め込んだ技法書の電子書籍版です。書籍版では分冊されていたものを一つにパッケージしており、お得になっております。

 著者の描くキャラクターは個性とリアリティを両立したもので語り草になっていますが、それを破綻なくアニメで動かすことがその真骨頂であります。本書は人物を描くためのコツや、それらを画面にどう配置するか、それに伴うパースの知識を盛り込んだ内容で、前半は基本編、後半は実践編となっています。

アオリ、フカンはサイコロで描け!

 人間の顔を描写するときよく使われる用語に「アオリ」「フカン」がありますが、この言葉を用いたのは著者がきっかけとされます。「今では変な俗語(私が原因か?)として使用されている」(本書6ページ)との記述があるように、角度によっては顔をうまく描けないアニメーターに対する問題意識の現れでしょう。

 その解決法として、本書では立方体を描くことを糸口としています。それに顔を書き込んだ「サイコロ君」の中心線をアタリにして、いろいろな角度から描いた見本を示し「人間の顔のつくり(眉、目、鼻、口)は、(中略)考え方として直線上にとらえてもらいたい」(本書17ページ)と教えているのです。

アニメーターの赤ペン先生

 本書では作画の見本だけではなく間違った例を具体的に示しており、他のアニメーター(と思われる)が描いた絵に赤ペンで修正を入れているページが印象的です。(中には辛辣な言葉もありますが)添えられている注意書きにはあくまでも、アニメーションで大切な動きを感じさせるための指示があふれています。

 特に、自動車や飛行機などメカニックの作画では「車を描く上で一番大切で難しいのはタイヤです」(本書206ページ)と重要点を示し、透視図法にのっとってパースをかけている絵には「まずお目にかかることはありません(中略)使い方によっては、とてもおもしろい画面が描けます」(同63ページ)と、演出によっては有効な点を指摘しています。

君よ、脚をデフォルメさせよ

 先に述べたように本書が出版された背景には、当時のアニメーター志望者数増加と(宮崎駿「風の谷のナウシカ」安彦良和「アリオン」など)個人による創作が注目されたことがあります。本書も一連のアニメーター指南書の一つではありますが、現在の目で見ると著者作品集の面がうかがえます。

 中には「これは私のポーズのクセなのですが、なぜこれほどキッカイな足になるかと言いますと、骨格のデフォルメなのです」(本書50ページ)との言葉どおり、(著者を知る人にはおなじみの)スネを極端に湾曲させたポーズの解説はその個性を再確認させてくれます。

 出版から40年近くたった今でも本書の内容は実践的なものであり、充分使用に足るものと思われます。

「新板 アニメーション作画法」湖川友謙 著 復刊ドットコム 3080円(税込)

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