王様戦隊キングオージャー バーチャルプロダクションガイド

 2023年に放送された「王様戦隊キングオージャー」(以下、「キングオージャー」)はこれまでのスーパー戦隊シリーズの中でも異世界を舞台にした異色作でした。「王様戦隊キングオージャー バーチャルプロダクションガイド」(以下、本書)は「キングオージャー」の撮影に注目した一冊です。

王様戦隊キングオージャー バーチャルプロダクションガイド税込3,080(2024/06/10時点)

惑星チキューはどのように作られたのか

 「キングオージャー」は地球とよく似た惑星・チキューを舞台に、五つの国(+1)を統べる王様たちが最終的に揃って強大な敵に立ち向かう物語でした。実写でそれを成立させるためには特撮技術が欠かせません。本書は撮影技術や背景のコンセプトアートなど、「バーチャルプロダクション」と呼ばれる手法の情報を盛り込んだものです。

 「バーチャルプロダクションとは、バーチャル背景とその前景にいる被写体を一緒にカメラで撮影することで、リアルタイムに合成する撮影手法」(本書4ページ)で、それまでに使われたホリゾント(書き割り)撮影やブルーバック(クロマキー)合成よりもリアリティのある映像を作り出すことに成功しました。

異世界を生み出すためのやり方

 本書はバーチャルプロダクション(以下、VP)解説書でもあり、冒頭には専門用語の解説も入っています。かつてのブルーバック合成も「グリーンバック合成」となり、さらに「カメラワークに合わせて背景も同期して動く撮影技術」(本書5ページ)「ライブ合成」(L合)と進歩しています。

 いずれにしろ背景を映し出す巨大なLEDウォールがあることで成立する撮影方法であり、「実際に背景が映し出される前で演技をするので、環境光がはね返ってくるのが大きな特徴」(同125ページ)ゆえに架空の世界ながら自然な映像が成立出来たのです。

五つの王国建国記

 もちろん、映し出されるものにリアリティがなければ台無し。本書では3DCGで作られた各国の背景やその元となったコンセプトアートを掲載しており、3Dゆえにどの方向から見ても破綻のない各国の個性あふれる城や内部などが一望でき、ファンタジー世界構築の参考となるでしょう。

 ただそれだけでは説得力に欠けてしまうため、ロケハンによる実景を組み合わせることでさらなる創り込みを行っています。自然溢れる国、イシャバーナやトウフの風景には北海道や長崎、山口県などの自然を用い、雪に覆われる国、ゴッカンや地帝国バグナラクには特撮作品の名所・栃木県での風景を加工して使っています。

俺様たちが、世界を構築する!

 本書の巻末には制作したプロデューサー以下、監督やVPに関わったスタッフたちのインタビューが収録されており、「キングオージャー」のようにVPを主流にした映像づくりは(昨今の世情が生み出したものとはいえ)これまでのような一部にVPを用いる番組とは一線を画す試みとして、その苦労がうかがえます。

 「今まで技術的に表現するのに難しかったシーンが(中略)可能になる」(本書125ページ)利点ゆえ、特撮作品だけでなく大河ドラマなどテレビや映画でも使われるVP。自然に見せるのが本来の使い方であるため、視聴者に気づかれないのが正しいという見方もありますが、「キングオージャー」のような作品の登場はVPの持つ可能性を示しているのかもしれません。

「王様戦隊キングオージャー バーチャルプロダクションガイド」東映株式会社 監修 玄光社 3080円(税込)

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