流れが見えてくる地政学図鑑

 よく「人類の歴史は、戦争の歴史」と言われます。しかし、なぜ戦争が起こるのか考えたことがあるでしょうか。「流れが見えてくる地政学図鑑」(以下、本書)は地政学的見方で世界史でおきた事件の理由を解説し、その流れを理解できる一冊です。


国は、その土地柄で動向が変わる

 本書は地政学を用いた世界史の解説書で、地政学は「国家の動向は、その土地に由来する」という考えに基づき、国際関係を研究する学問です。本書はその視点によって各国家がどのようにして領地政策を行い、戦争に向かった歴史の流れが副題の通り「イラストでサクッと理解」できます。

 歴史を理解するのに有用な地政学ではありますが、「(第二次世界大戦)当時のナチスや日本の軍事政策に影響を与え」(本書10ページ)た過去があるため「地政学の重要性はなかなか世間に認知されず」(同2ページ)、本書はその状況に一石を投ずる一冊でもあります。

シーパワー国家とランドパワー国家

 地政学において国家には2種類あり、広大な陸地をその資源とするランドパワー国家と、海に面しその恩恵を受けるシーパワー国家に分けられます。人類の歴史は、その国家同士が互いのパワーを狙って繰り広げる闘争であり、特に大国は両方のパワーを求める傾向があります。

 歴史上、長年のライバル関係であるイギリスとフランス。各々シーパワー国家とランドパワー国家でありますが、フランスは海に面するシーパワー国家でもあります。地政学上ではどちらかのパワーしか持てないとされ、どっちつかずのフランスがイギリスに一歩及ばない理由はそこにあるのでしょう。

おごれるものは、ドツボにはまる?

 本書には、歴史上繰り返されるある種のパターンがコラム扱いで掲載されています。その中の一つ「“勝って兜の緒をしめよ”は難しい」(本書64ページ)は戦いに勝った勢力がそれにおごり、後に手痛い敗北を喫するパターンです。この例として戦前の日本が当てはまるでしょう。

 本書の半分は、世界各地において大戦後から現代まで続く問題を地政学で読み解くページが占めます。いずれの問題も突発的に起こったものではなく、連綿と続く歴史の中で複雑化したもので、先のパターンで言うところの「戦争ははじめるより終わらせるほうが難しい」(同96ページ)ことを思い知らされます。

悲しいけど、これって新しい戦争なのよね

 先の大戦で、大量破壊兵器を使う戦争は終わったように見えます。しかし、戦争は冷戦・テロの時代を経て変化しながら続いており、現在はネットの普及で発展した情報戦を主軸としているとの指摘が本書の締めとなります。国同士の資源をめぐる争いは変わることなく、2つのパワー国家が接する地域で繰り広げられているのでした。 

 人類が存在する限り、戦争は終わらないのかもしれません。それでもできる限り「戦争の被害を、いかにして最小限にとどめ、国際秩序を構築するか」(本書187ページ)が全人類に課せられた課題なのでしょう。地政学と本書がその一助になるのは疑いようがないのです。

「流れが見えてくる地政学図鑑」神野正史 監修 ナツメ社 1870円(税込)

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