2021年放送「機界戦隊ゼンカイジャー」の音楽を担当したのが、実質的な渡辺宙明最後の仕事となるでしょう。「スーパーアニソン作曲家 渡辺宙明大全」(以下、本書)は半世紀以上アニメ・特撮作品の音楽や主題歌を手掛けた作曲家の仕事を網羅した一冊です。
(本記事ではアニメソング・特撮ソングをまとめて「アニソン」と表記する旨、ご了承の程を)
「みちあき」より「ちゅうめい」がいいさ
本書は2022年に逝去された作曲家・渡辺宙明(以下、宙明)のインタビューで構成された一冊です。本名「みちあき」との呼び方よりも「ちゅうめい」とファンから呼ばれ、独自のメロディから「宙明節」「宙明サウンド」との言葉が生まれるほどに親しまれました。
それまで映画音楽を作曲していた宙明は1972年に特撮番組「人造人間キカイダー」の音楽を担当、同年のアニメ「マジンガーZ」で主題歌が大ヒット、以降アニメや特撮作品を次々に手掛け、90歳を過ぎてもなお生涯現役で作曲を続けていきました。
バラバラババンとバンバラバンバンバン
宙明サウンドといえば「Zのテーマ」「駆けろ!スパイダーマン」など熱い中に哀愁ただよう楽曲が思い浮かびますが、再放送版「サザエさん」主題歌のように日常系の楽曲も守備範囲であり、その仕事は多岐にわたるうえ、作曲の量は膨大であります。
その特徴といえばロックのリズムや電子機器をいち早く取り入れた先進性とともに、「バンババン」「オゥオゥオゥ」などスキャットを多用した楽曲作り。「秘密戦隊ゴレンジャー」「鋼鉄ジーグのうた」などに顕著なフレーズは子どもの印象に残り、70年代アニソンの主流となりました。
あの音楽を背にぶった斬れ!
80年代における宙明サウンドの代表作といえば82年の特撮作品「宇宙刑事ギャバン」でしょう。主題歌はもとより必殺武器・レーザーブレードを振るうときのBGMが人気となりますが、「『悪の襲撃』という発注で作りました。(中略)評判がいいと聞いたので」(本書128ページ)以降のシリーズだけでなく、他の作品でも同様の楽曲が使われるようになります。
87年のOVA「破邪大星ダンガイオー」でも必殺技を振るうときに使われ、「おなじみのテーマが『また来た!』という風にしないと、映画音楽としては盛り上がらないんです」(同166ページ)とあえて定番曲を使い、印象づけるためのアレンジを心がけていたようです。
スーパー宙明大戦・機界編
90年代を過ぎ、後進の作曲家が増えたこともあって宙明サウンドは一段落つくことになりますが、ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズでその楽曲が使われたことで再評価の機運が高まります。以降、いわゆるアニソンのスタンダードとして宙明サウンドが求められ、晩年までコンスタントに仕事をこなしていきました。
出版時期の関係上、2018年の劇場版「マジンガーZ INFINITY」(音楽は息子の渡辺俊幸が担当)あたりまでしか掲載していませんが、その偉業は本書に十二分収められており、本書は改めてその音楽に触れるためのガイドブックとなるでしょう。(Re)
「スーパーアニソン作曲家 渡辺宙明大全」腹巻猫&宙明サウンド研究会 著 辰巳出版 2530円(税込)
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