70年代は「できるできないのひみつ」の出版など、学習漫画の黎明期でした。その中でも「未来救助隊アスガード7 すがやみつる版(1974・1975)」(以下、本書74、75)は「S・Pハーレー」「チクタク大冒険」に先駆け、石ノ森章太郎が原作の作品です。
理科の知識で戦うサイボーグたち
本書は半世紀前の学習雑誌に連載された漫画の単行本です。本書74の巻末に詳しい解説が載っていますが、学年誌にまたがって連載されていたため、石ノ森章太郎(当時、石森)と彼が率いる石森プロやその周辺の漫画家が作画を担当しており、本書はその一人、すがやみつるが描いたコミカライズとなります。
「地球を混沌に染めようとする組織、ガオスに立ち向かう7人のサイボーグ、アスガード7の活躍を描く」と、あらすじをまとめるとまるで石ノ森の代表作「サイボーグ009」(以下、「009」)のバリエーションのようにも思えますが、連載当時「仮面ライダー」のヒットで石ノ森章太郎の人気が再び高まった中では仕方がないことかもしれません。
アスガード7は、石ノ森オールスターズ?
アスガード7、そのメンバーは主人公の研マナブ、紅一点ロミ・オハラ、全身機械のマシンマン(星雲仮面に非ず)、鳥の姿のハヤブサ、水陸両用能力を持つバービー、カメレオンの変身能力を持つニンジャー、そしてカミキリムシ姿のカミキリキッドの7人。マナブとロミ、マシンマン以外は動物の姿をしていますが、他バージョンでは全員人間の姿で描かれているものもあり、漫画家によるアレンジが許されていたのでしょう。
やはりというか、マナブとロミは「009」の009と003のイメージが重なり(初期のロミは003そのもの)、マシンマンの顔は「人造人間キカイダー」のハカイダーによく似たデザインで、カミキリキッドに至っては「仮面ライダー」のマスクとよく似た顔をしています。実際「009」扉絵のパロディとも取れる扉絵が描かれており、師・石ノ森の影響は大きいようです。
律儀な悪の組織、ガオス!
学習漫画である関係上、超兵器よりも理科の知識で戦うアスガード7。その知恵比べとアクションが本作の売りではありますが、他の学習漫画と比べ学習単元とストーリーの兼ね合いが難しいとの判断か、本書74ではSF作家の豊田有恒をSF考証に迎えてストーリー作りが行われていたようです。
ただ本書74ではアスガード専用マシンの登場が多い反面、ページ数の少なさから壮大なストーリーをまとめるのに苦労した部分がうかがえ、75では一転してマナブとロミが日常生活の中、ガオスの作戦に巻き込まれるパターンが多くなります。ともあれ太陽の運行を攻撃のタイマー代わりにしたり、巨大な電磁石でビルを崩壊させたりと、身近な物理法則を駆使して作戦を行うガオスの律儀さには頭が下がります。
そして「ゲームセンターあらし」へ
さて、本書の作画を担当したすがやみつるは後に「ゲームセンターあらし」(以下、「あらし」)でヒットを飛ばすわけですが、それ以前のコミカライズ版「仮面ライダー」で培った迫力あるコマ割りとコメディ描写は本書でも健在で、「あらし」につながる要素が随所に見られます。
いずれにせよ権利関係上復刻の難しい本作、全貌を掴むのは難しいとはいえその一部をこうして目のあたりにできるのはありがたい限りです。当時を知る人ならずとも現在の学習まんがにつながる試行錯誤を本書からうかがい知れるのではないでしょうか。(Re)
「未来救助隊アスガード7 すがやみつる版(1974・1975)」石ノ森章太郎 原作 すがやみつる 作画 復刊ドットコム 2200円(税込、2冊とも)