筒井康隆SFジュブナイルセレクション デラックス狂詩曲

 作家・筒井康隆の代表作、「時をかける少女」。青春のほろ苦さとSF設定がうまく噛み合った傑作ですが、「筒井康隆SFジュブナイルセレクション デラックス狂詩曲」(以下、本書)は同様のテイストを持つ作品を集めた一冊です。


ライトノベルの源流にいた筒井康隆

 本書は、筒井康隆が書いたジュブナイル小説を集めた中の一冊です。特に本書は1977年に発行されたものから、高校生を主人公にしたいわゆるライトノベルと呼ぶべきテイストの作品三点を集めています。もちろん当時その言葉は使われていませんが、「時をかける少女」をそう呼んでも差し支えはないでしょう。

 70年代から80年代にかけて、児童向けのジュブナイル小説から発展して中高生向けに書かれた小説が台頭してきました。まだ明確な呼び名が与えられなかったそれらを書いた作家の一人に筒井康隆がいたのです。読者の求める非日常を描くためにSFは有効なジャンルであり、筒井の得意分野でもありました。

そのテレビ、3Dプリンターかも?

 表題作「デラックス狂詩曲(ラプソディ)」は、「デラックス趣味」(本書76ページ)の女子高生が家のテレビで画面に写ったものを実体化コピーする機能を見つけたことから始まる物語で、テレビに映るスタータレントをコピーしてからの展開はドタバタ喜劇の様相を呈します。

 当時としては「スタートレック」のエネルギーを物質化するデュプリケーターを元ネタにしていたのでしょうが、今にしてみれば3Dプリンターのような機能にも見え、半世紀経ってある程度実現化しつつあるのはSFならではの醍醐味でしょう。

その放課後にティータイムを

 そして「暗いピンクの未来」は、美術にしか興味のない高校生がとあるきっかけで12年先の未来へタイムスリップし、未来の自分と出会って様変わりした社会を垣間見る内容です。その未来が昭和63年(昭和最後の年!)なのは偶然とはいえ感慨深いものがあります。

 逆に「超能力・ア・ゴーゴー」はガリ勉高校生が意中の人を射止めるため、とある方法で音楽の才能を手に入れる物語です。ある意味「アルジャーノンに花束を」を思わせる主人公の変化に伴う身の回りの変化が読みどころですが、少し切ないオチとはいえ、あっさりとした読後感があります。

青春なんて、あっけらかんとしたものさ

 各作品は短編なのもあって、青春を描いたわりにはあっけらかんとした作風が見られます。ジュブナイルに限らず筒井作品には人間を俯瞰して描く傾向があり、愚かなところや素晴らしいところも均一なトーンで綴られる、そのテイストは肩透かしなオチを含め本書にも健在です。

 先に述べた通り、半世紀近く前に書かれた小説がどれだけ現実に追いついたかを確かめてみるのもSF小説の醍醐味の一つでもあります。特に寓話性の高い筒井作品においてそれは意味のないことかもしれませんが、少なくとも当時の現代から地続きの未来を舞台にした本書の作品はそんな楽しみ方を提示してくれます。

「筒井康隆SFジュブナイルセレクション デラックス狂詩曲」筒井康隆 著 金の星社 1650円(税込)

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