いわゆる「アニソン」が音楽チャートを席巻するのも珍しくない昨今、その文化の基礎を作ったのは80年代のアニソンとそのレコードでありました。「アニメディスクガイド80’s」(以下、本書)は80年代に生まれたアニソンの名盤をレビューする一冊です。
80年代に始まるアニソンの変質
本書は「オリジナルビデオアニメ80’s」と同じく、80年代に発売されたアニソンレコードを集めたものです。レビュアーによって選ばれた歴史的な意義を持つシングルやアルバムを集め、レコードジャケットとともに紹介していますが、メジャーな曲が入っていないこともあるのも特徴です。
それまでは童謡の延長が多かったアニソンも、80年代になるとアニメの放送本数増加と視聴年齢の上昇に伴い、歌謡曲やアイドル、ロックなど様々なジャンルをまたいで制作されるようになります。つまりアニソンが音楽業界の垣根を超える下地を作ったのが80年代だったわけです。
あの人もこの人もアニソンに携わっていた
本書でうかがえるのは、現在も音楽で名を成す人々もこの頃から活動していたこと。一連のスタジオジブリ作品で音楽を担当した久石譲も、「銀河疾風サスライガー」「失われた伝説を求めて」など他のアニソンで編曲を担当しており、当時から突出した才能が見られます。
「装甲騎兵ボトムズ」の主題歌を、織田哲郎が「TETSU」名義で歌っていたのは有名な話ですが、これに限らず、結成50周年を迎えたバンド・THE ALFEEも、80年代にアニメ映画化された「レンズマン」の主題歌を担当し、以降もコンスタントにアニソンを手掛ける足がかりになっています。
アニメの代替品としてのレコードたち
80年代のアニメは(ビデオデッキが普及し始めたとはいえ)リアルタイムで視聴するのが普通でした。まだまだ視聴環境が不自由だったこの時代に、代わりを務めるのがサントラやドラマ盤などのレコードたちだったのです。本書後半ではそれらを一同に集め、その魅力に迫ります。
その中には映像化されていない漫画のイメージアルバム、声優によるオリジナルアルバム、そしてアニメ本編から離れてパロディドラマを織り込む企画盤など、現在に続くありとあらゆる音盤の試みが行われていました。
また、レコードジャケットもオフィシャルの画像を使うのとは別に、安彦良和、湖川友謙などアニメーターによる描き下ろしイラストが用いられました。特に「蒼き流星SPTレイズナー」のサントラでは同作のキャラクターデザイナー・谷口守泰による独自のジャケットが(三枚目では「最後の晩餐」のパロディ!)目を引きます。
アニソンよ、80年代に帰れ
80年代のアニソンは先進的な試みもある一方、「光速電神アルベガス」「CROSS FIGHT!」など渡辺宙明による楽曲や「にんげんっていいな」のような正統派アニソンも併存していた時代でありました。そんな時代に生まれた「イントロだけで死ねる曲」(本書154ページ)「夢色チェイサー」はアニソン過渡期を代表する一曲でありましょう。
「純粋に音楽として様々な角度からの評価が進んでいる」(同271ページ)80年代アニソン。他のサブカルチャーと同じく創成期の試行錯誤で生まれたカオスが匂い立つ、楽曲たちの息吹を本書で味わってみてはいかがでしょうか。
「アニメディスクガイド80’s」MOBSPROOF編集部 編 河出書房新社 2640円(税込)