水玉螢之丞作品集 ワンフェスのワンダちゃん

 今に続くガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル」。そのマスコットキャラ・ワンダちゃんの生みの親が逝去されてから10年近く経ちました。「水玉螢之丞作品集 ワンフェスのワンダちゃん」(以下、本書)はその仕事を集めた書籍の内の一冊です。


いさましいちびのイラストレーター、その軌跡

 本書は自称「いさましいちびのイラストレーター」、水玉螢之丞の作品集です。雑誌連載のイラストエッセイをメインに、平成に入ってから2014年に亡くなるまでオタク趣味全開の仕事をこなし、マニアックな人気を博した著者。本書は生前の仕事を集めた中で、模型関連に特化した一冊になります。

 連載形態と権利関係上、単行本化が難しかった一連の仕事がまとめられたのは著者の没後であり、結果的に平成のオタク界隈を広く記録した(著者の主観が大きいとはいえ)その仕事は歴史的な意義を持ちます。少なくとも本書の内容は著者の守備範囲外だからか、比較的冷静な目で捉えているのがうかがえます。

ああ、あの雑誌に、この雑誌に!

 本書における掲載元は模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」以下、ゲーム雑誌やアニメ雑誌など各種に渡ります。著者は一時期にパソコン、SFなどありとあらゆるオタク系雑誌に連載を持ち、そのつながりからワンダーフェスティバル(以下、ワンフェス)のマスコットキャラデザインの依頼を受けることになります。

 そんな経緯で生まれたのがワンダちゃん(&リセットちゃん)。本書ではそのイラストを掲載すると同時にワンフェスのリポートエッセイをメインにしています。「版権フリーでみんな(あっ禁句)に作ってもらうため」(本書051ページ)のキャラであるため、会場で見られたワンダちゃんの立体を作者自らが注目する記述が見られました。

推しはいいね、リリンの生んだ(以下略)

 そして本書に限らず著者の特徴としては、今で言うところの「推し」(当時この用法はなかった)が描かれるところ。「新世紀エヴァンゲリオン」の渚カヲル、「新機動戦記ガンダムW」のゼクス・マーキス、「ゼルダの伝説」のリンクなど、立体化されているか否かにかかわりなく事あるごとに登場します。

 そこには「うーん、やっぱオレって『モケイの国』に足の先つっ込んでるだけでそこの住人じゃないんだわ」(本書079ページ)など自分の感覚を明確に言語化できる強みと、普通のオタクを凌駕する知識量が生み出す独自のセンスが、そのこだわりを他者に理解させるだけの力をもつ唯一無二の作風があり、推しはその一部を構成しているといえるでしょう。

そして、ワンダちゃんが残った

 「でもオレ ホンモノのおばあさんになっても ワンフェスとか行ってそうな気がすごくする」(本書159ページ)未来にならなかったのは非常に惜しまれますが、著者の仕事はオタクの生に近い感覚を具現化し、心地よいまでのマニアックさをかもし出す「オタクの女神」と呼ばれるにふさわしいものでした。

 そして(部外者ながらその本質を理解した著者によってビジュアルを得た)ワンフェスでは今でも、ワンダちゃんたちを(絵柄を変えながら)その象徴としています。その中で多少の影響を与えた著者の仕事、その一端を本書で味わってほしいものです。(Re)

「水玉螢之丞作品集 ワンフェスのワンダちゃん」水玉螢之丞 著 さいとうよしこ 編 本の雑誌社 2546円(税込)

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