CAFE SKETCH

 短時間で対象を描くジェスチャードローイングはハードルが高そうに思えても、モデルが止まってくれる分慣れれば描けるようになってきます。でも、身の回りにいる人々を描こうとすると…?「CAFE SKETCH」(以下、本書)はそんなスケッチの楽しさを伝える一冊です。

カフェスケッチ / CAFE SKETCH 感じることはタカラモノ税込3,080(2024/10/20時点)

栗田唯がストーリーアーティストになるまで

 本書はジェスチャードローイングの講師でもある栗田唯の著書です。その肩書は「ストーリーアーティスト」であり、「映像・画像の制作にかかる前に(中略)設計図を描いていくような仕事」(本書8ページ)で「ストーリーボード」とも呼ばれる工程です。

 本書冒頭は著者の経歴から始まり、留学し「なりゆきに近い形で美術学校に入学」(同16ページ)した著者が紆余曲折の末ジェスチャードローイング、そしてストーリーボードに出会うまでが書かれます。タイトルの「カフェスケッチ」はその中で取り組んだ課題であります。

カフェスケッチのすすめ

 カフェスケッチとは「カフェでコーヒーでも飲みながら、目の前にいる人をスケッチしてください」(本書36ページ)といったように身の回りにいる人々を描くこと。もちろん対象はモデルのように止まってくれるわけではないので描くのは一筋縄ではいきません。

 それでも著者がカフェスケッチを勧めるのは、その信条である「ルール」と「クリエイティブ」のうち感覚を重視する「クリエイティブ」部分を養うのにうってつけだから。ジェスチャードローイングで培った印象を捉える能力を、カフェスケッチでさらに磨く効果が期待されるからです。

ハードモードをクリアするために

 「モデルを描くジェスチャードローイングがイージーモードだとしたら、カフェスケッチはハードモード!」(本書56ページ)であるにしても、あくまでその場は細部を気にせず印象をメモする感覚で取り組み、後で仕上げていく方法を示しています。そして大事なのは楽しむこと。

 著者に言わせれば対象に「何かが『おもろー』ってピンときたら、すぐに鉛筆を走らせます」(同65ページ)と興味が湧いた部分を中心に描いていくと、その果てに「今まで何でもなかった景色がキラキラ輝いて見えて」(同66ページ)くるのだとか。確かに本書に収録されている著者のスケッチには、感じ取った印象が勢いのある描線に現れています。

自分だけのタカラモノを探そう

 本書の副題は「感じることはタカラモノ」。それはカフェスケッチによって感性を磨く大切さを表しているものです。そうして手に入れた感覚は描いた本人だけのものであり、ストーリーアーティストに限らずすべての表現者にとって、他人に自らのメッセージを伝えるための強力な武器となるでしょう。

 もちろん本書は技法書というより、著者の考えを知るものとして、また作品集として楽しむことができます。いずれにせよ本書でカフェスケッチを描きたくなったなら、それは著者の狙い通りなのかもしれません。(Re)

「CAFE SKETCH」栗田唯 著 ボーンデジタル 3080円(税込)

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