MSVジェネレーション

 1980年代前半に起こったガンプラブームからすでに40年近く経ち、その渦中にいた少年たちもアラフィフとなった昨今、その記憶も薄れかけているかもしれません。そんな時代の記録を「MSV」というコンテンツを中心として編んだ本がこの「MSVジェネレーション」(以下、本書)であります。

MSVとは、偉大なる二次創作である

 MSVとは、アニメ「機動戦士ガンダム」(以下、「ガンダム」)に登場するモビルスーツ(以下、MS)のバリエーションとして、劇中には登場しなかったものの、設定上は存在したであろうという仮定のもと新たにデザインされたものです。

 しかし、これらはいまでこそ公式の存在として認知されてはいますが、本来は同時多発的に起こったファン活動とガンダムのプラモデル(以下、ガンプラ)における商品開発の中で作られたもので、今で言うところの二次創作といえるものなのです。

このガンプラ、オレには作れない…

 MSVは雑誌企画として展開されたもので、「ガンダム」でメカデザイナーを務めた大河原邦男による新たに描き起こされたMSのデザインと、その背景となる設定の解説、そしてデザインされたMSの立体化という三本柱で構成されています。

 それを連載していた雑誌とは、ガンプラを発売していたバンダイ模型(当時)のPR誌「模型情報」と、創刊されたばかりの漫画雑誌「コミックボンボン」。二誌は相互補完するようにMSVをアピールしていきました。

 特に「コミックボンボン」(以下、ボンボン)はMSVの立体化に重点を置き、「ここまで『ガンプラに濃い児童漫画誌』が許されるのか!?」(本誌78ページ)と書かれるくらいに高度なガンプラの作例が充実していたのです。

 それもそのはず、制作記事を載せていたモデラーの中に、ボンボン創刊より少し前に出版された「HOW TO BUILD GUNDAM」(模型雑誌「ホビージャパン」別冊)で製作していたモデラー集団「ストリームベース」が参加していたからです。

 読者にしてみれば、微妙に見おぼえのないデザインのMSが、キットを改造して造られたとてもかっこいい立体となって毎号載っているのですから、真似できないとしてもいずれキット化されるのではないか、と期待して購読してしまうのも無理からぬことでしょう。

とある編集者の小さくて大きな野望

 「ボンボン」内において、ガンプラをテーマとした漫画「プラモ狂四郎」との相乗効果で売り上げに貢献したMSV。同誌の編集者だった安井尚志は、その仕掛け人と言うべき人物であります。安井はボンボン創刊以前から「模型情報」との連携を進めたり、ストリームベースと接触したりと、MSVにつながる根回しを行っていました。

 その過程において、「ガンダム」の制作元である日本サンライズ(当時)を通さずに直接大河原へデザインの依頼をしたり、前後して出版された「ガンダムセンチュリー」(サブカル系アニメ誌「月刊OUT」増刊として出た、ファン有志が「ガンダム」のSF設定を考証した記事が中心のムック)内の設定を無許可でMSVに取り入れたりと、今では考えられない強引な方法を取ったとはいえ、当時のブームの流れを拾い上げ、企画をヒットさせた手腕には驚嘆を覚えます。

 「ボンボン」創刊から1年半ほどたった83年3月、ついにMSVが模型化されます。当時のガンプラはまだまだヒット商品ではあったけれども、作品に登場するMSはあらかたキット化され、新商品が出しにくい状況でした。そんなことも追い風になって、雑誌企画から生まれたMSがプラモデルとして製品化した、という前代未聞の事態が起こったのです。

 しかもキットそのものもストリームベースの意見を取り入れ、初期キットの弱点を改良したものになっており、そうした質の上昇も相まって「じつに42点の製品がわずか1年10ヶ月のあいだに製品化」(本書200〜201ページ)というハイペースで、MSVは一大シリーズとして展開されました。

ガンプラブーム最後の祭り

 しかし85年3月、「ガンダム」の正当な続編「機動戦士Zガンダム」の放送が開始され、劇中にMSVが登場するのに合わせ一部のキットが再販される形でMSVは終焉を迎えます。設定的にもキット的にも時代遅れの存在として登場したそれらは、ブームの終わりを体現する役割を負わされているようでした。

 筆者は伝説の音楽フェス・ウッドストックになぞらえましたが、MSVという「『この程度の安直な企画』」(本書19ページ)が「ノリが新たなノリを呼び込み企画が雪だるま式に巨大化していく」(本書200ページ)末に、当時の少年たちや少し上の世代までも熱狂させた様子はまさに祭りと言って差し支えないでしょう。

 MSVという現象が与えた影響は数多くありましたが、その一つとして、ガンプラというコンテンツを40年も続けるための足がかりを作ったことが挙げられます。結果的に「ガンダム」の新シリーズまでのつなぎという扱いだったとしても、MSVが確立した方法論が、以降発売されるHG(ハイグレード)やMG(マスターグレード)などのガンプラに受け継がれているのは間違いありません。

 「あくまで筆者個人の立場から伺い知ることができた史実としてのMSV」(本書20ページ)とはいえ、かつて渦中にいた者では知りようがなかったMSVの裏側を記したという意味では、非常に価値のある一冊であります。

 最後に、筆者がかつてMSVと同様の雑誌企画「ガンダム・センチネル」において、安井と同様のポジションにいたことは特筆すべきでしょう。

「MSVジェネレーション」あさのまさひこ著 太田出版 2700円+税

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