NHKEテレの番組「出川哲朗のクイズほぉ〜スクール」には「知恵の館の主」なる進行役のナレーションが入ります。「出川よ、答えるのじゃ!」との口調と声のギャップがかもしだす、いわゆるロリババア感が癖になるナレーションを担当する声優がしたためたエッセイが「悠木碧のつくりかた」(以下、本書)であります。

悠木碧のひとりごと
本書は声優・悠木碧によるエッセイ集です。「魔法少女まどか☆マギカ」の鹿目まどか、「ヒーリングっど❤︎プリキュア」のキュアグレースなどの声を担当し、歌のみならず多様な活躍をする著者が、生い立ちから日々の出来事までを綴った一冊となります。
「薬屋のひとりごと」の猫猫(マオマオ)や「蜘蛛ですが、何か?」の主人公・蜘蛛の「私」など、クセの強い役が多い著者。本書はそれを構成する物事や経験を記述した内容で、独り言のような文体がクセの強さを補強しているようです。
人生はハードモードのゲームだ
子役を経て声優への道を目指した著者。「大人も子供と変わらないんだなと、納得するには十分なくらい」(本書30ページ)特殊な経験をもとに「まだまだ三分の一しか遊んでいない、自分というゲーム」(同79ページ)という感覚で生活しているようであります。
それは楽しいことだけとは限らないわけで、その制限の中でいかに楽しく生きていくかということ。本書前半では著者自らの半生から「まず、自分が武器にできるものを(中略)活かせる方法を探してみてくださいね」(同89ページ)とのアドバイスが記述されています。
推しを、狙い撃つ!
さて本書中盤では著者の「推し」を語っており、中でも「機動戦士ガンダム00」のキャラクター、ロックオン・ストラトスは著者の人生に多大な影響を与えたようです。それがきっかけだったかはともかく、著者における数ある推しの傾向が本書で展開され、その自己分析が楽しくも思えます。
また、著者が「機動戦士ガンダム」シリーズに出演したからかはさておき、メイクをする意義について「ガンプラのリペイントとか、そんな感じ」(本書152ページ)と例えるのは意外に正鵠を射ているのかもしれません。いずれにせよマニアックな解釈でしょうが。
猫が毛玉を吐いたので
さて、本書終盤には飼い猫についての記述があります。「あ〜えらいえらいえらいかわいいかわいいちゃんですねぇ〜!!」(本書175ページ)との言葉が出てくるほどに立派な下僕っぷりを見せるとともに、猫自身にハンデを抱えているがゆえの愛情が文面から感じられるでしょう。
「あっ、猫が毛玉吐いたので掃除してきます」(同79ページ)で終わるなど、独特な言い回しが目立つ本書。そのクセの強さは決して読者を裏切るものではなく、役柄以上の個性を獲得した著者ならではの自己表現なのかもしれません。(Re)
「悠木碧のつくりかた」悠木碧 著 中央公論新社 1870円(税込)