童謡「まちぼうけ」を知っている人は多くても、その元になった四字熟語はご存知でしょうか?「奇妙な四字熟語」(以下、本書)は膨大な四字熟語の中から、意味がわからない・知っていても訳がわからないなど現在では奇妙に思われるものを集めた一冊です。

故事成語なので、四字でなくても…
本書は「奇妙な漢字」の著者が、これまた奇妙な熟語を集めたものです。「意味不明なもの、笑えるもの、シュールなもの」(本書4ページ)など、現代日本でよく知られているものからまず知られていないものまで多岐にわたる熟語が掲載されています。
中には「太公望」(同82ページ)「白髪三千丈」(同268ページ)のように四字熟語ではないものもありますが、そのほとんどが古代中国や日本の故事から生まれたものであり、そこにはドラマチックなもの、不思議なもの、色っぽいものまで様々な物語が秘められています。(ちなみに「まちぼうけ」の元となった四字熟語は「守株待兎」(同128ページ))
何だこれは?寒山・拾得
水墨画のモチーフとしてよく見られる二人組のおじさん、寒山拾得。絵師によっては不気味な顔つきで描かれるこの二人は一体何者なのか。本書で熟語となっているように故事に倣っており、洞窟に住み自由に生きた寒山と彼を養った拾得はなぜか「聖者として崇められていた」(本書36ページ)そうです。
「なんだ、ただの変な人じゃないか」(同)と思うのは当然でしょうが、絵画、特に禅画においては「照猫画虎」(同164ページ)でかわいい虎の絵を描くように、既成概念を覆すことに重きをおいており、芸術家・岡本太郎のような社会通念に縛られない生き方をした(であろう)寒山拾得はそのコンセプトに相応しいモチーフといえるでしょう。
とはいえ現代社会ではこの二人が一般的に知られているとは言い難いわけで、その意味で「寒山拾得」の言葉は奇妙な四字熟語と言わざるを得ません。
カラスは色を選べない
本書の熟語には先の「照猫画虎」のような動物の文字が入ったものも多く見受けられます。虎や豹は恐ろしいものの代表として使われるのは理解できますが、問題はカラス。
- 「白兎赤烏」(時間、月日のこと・本書42ページ)
- 「烏之雌雄」(二つのものの区別がつきにくいたとえ・同152ページ)
- 「烏白馬角」(この世にありえないこと・同176ページ)
と、太陽の象徴である赤いカラス、どちらも黒くてオスメスの区別がつかないこと、そして白いカラスはありえないもの、と各色のカラスが織りなす言葉のバリエーションに驚かされます。とはいえ白いカラスは遺伝的なアルビノとしてなら実在するわけで、それを昔の人に伝えたとしても「白馬非馬」(同140ページ)の如き屁理屈で否定するのでしょう。
見よ、現実世界の虚しさを
そして、もう一つの特徴としては「桃源郷」(本書86ページ)に代表される異世界に関する熟語も目立ちます。その中には「橘中之楽」(同200ページ)「壺中之天」(同205ページ)など身の回りにある「この世から離れた別世界」(同)の発想があり、人間の求めるものは今も昔も変わらないようです。
ただ、「胡蝶之夢」(同74ページ)「南柯之夢」(同132ページ)「邯鄲之夢」(同202ページ)のような「人生は夢のごとし」を体現する熟語もあり、生きることの虚しさを表す意味においては先の異世界に関する熟語と表裏一体をなしているとはいえないでしょうか。
ともあれ、「酒池肉林」「白河夜船」「一酔千日」などの知っているようでよく知らない熟語本来の意味を解説しているのは役に立ちます。
「奇妙な四字熟語」杉岡幸徳 著 ポプラ新書 990円(税込)