絵本作家・ヨシタケシンスケがスケッチ集「しかもフタが無い」でデビューしたのは知ってのとおり。そんな著者による新作スケッチを集めたのが「ヨイヨワネ(あおむけ編・うつぶせ編)」(以下、本書)であります。

絵本になる以前の思いつき
本書はヨシタケシンスケによるスケッチ集です。著者は絵本のアイデアとなるスケッチを書き溜めており、基本的に表に出ないものですが、それ自体にも絵本とは違った面白さがあります。日常の一コマから思考を言語化したものまで多様な中、共通しているのは「弱音」ということ。
「これは実はすべて、『良い弱音』なのです」(本書あおむけ編207ページ)と語るように、ネガティブな著者による言葉と添えられたイラストには、そこはかとない生きづらさとそれに伴う可笑しみがあります。これは前作「しかもフタが無い」から連綿と続く著者の思考の現れでしょう。
弱音を吐くエイリアン
本書で比較的ポジティブな弱音が収録されているのがあおむけ編。中には本に関するものもあり、
- 「絵本 おじさんのいちにち」(本書あおむけ編95ページ)
- 「届け!弱音!何処に?」(同96ページ)
- 「書店員さんは本をくみ合わせて書店に物語やメッセージを描くのが仕事なのです」(同135ページ)
など著者の職業に関係した、とりとめもない思考が述べられています。
また、某せんべいに描かれているイメージキャラクターのラフスケッチらしきものがあったり、毛むくじゃらのエイリアンが、人間に寄り添うようで「どうせなら、好きになりたかった。世界だって自分だって」(同45ページ)と弱音を吐く姿は悲壮感さえ感じます。
こいつ、動くのか?ヨシタケメカ
先に述べた通りうつぶせ編のほうがネガティブな記述に溢れ、描かれる人々の目つきも、心もちよろしくないようです。「だからどうしたっていうのかしら」(本書うつぶせ編120ページ)という話ではありますが…。

あおむけ編でもロボットが描かれていましたが、うつぶせ編ではMRIや飛行機、自動車などの実在するものから始まって用途のわからないオリジナルのメカまで描かれているページが目を引きます。他のスケッチとは一味違いそのデザインやディテールを見ると、創作のためというよりは趣味で描いている感覚が強いようです。
弱音って、実はいいものなんじゃ?
本書の最後に、著者が弱音の意義について語っており、
- 「不安や弱音を外に出すことで気もちが楽になる人」
- 「言語化することで不安がより強化されてしまう人」(以上、本書うつぶせ編206ページ)
がいる、としています。
どうも著者は自分がどちらか不明なようで、これらが自身に効果があるか否か自信がないようです。少なくとも先のメカを描いているページには弱音のようなものが感じられないので、前者の役割を果たしているのかもしれません。
「ヨイヨワネ(あおむけ編・うつぶせ編)」ヨシタケシンスケ 著 ちくま文庫 984円(2冊とも・税込)