アニメ「機動戦士ガンダム」で主役メカのガンダムがかっこよく見えたのは、安彦良和などアニメーターの力量によるものと知ったのは大人になってからでありました。「安彦良和 マイ・バック・ページズ」(以下、本書)は安彦良和にその仕事を語ってもらったものです。
安彦良和 マイ・バック・ページズ税込2,420円(2024/12/08時点)「機動戦士ガンダム」だけじゃない安彦良和
本書は、雑誌連載された安彦良和のインタビューを単行本化したものです。漫画家である安彦は、それ以前に「機動戦士ガンダム」(以下、「ガンダム」)などのアニメーターとして活躍していました。本書ではその全仕事を語ってもらい、その歴史と生き方を記録しています。
幼少期に漫画家を目指していた安彦はアニメスタジオ・虫プロに入社、以降はアニメーターとして「勇者ライディーン」「宇宙戦艦ヤマト」などで頭角を現し、「ガンダム」で作画の中枢をなす「アニメーションディレクター」の肩書でその仕事をこなすことになります。
伝説のアニメーター、その栄光と挫折
しかし、その途中で急病のため現場から離れなければならず、安彦にとっては不満の残る作画となってしまいました。その後「ガンダム」は人気上昇の末に劇場版が作られることになります。復帰した安彦はテレビ版のリベンジを果たすがごとく新規作画を手掛け、その名を不動のものとしていきました。
その後独立し劇場アニメ「クラッシャージョウ」を制作、理想的な制作環境で自ら総指揮した「巨神ゴーグ」を作るも「とにかく潮目が変わった」(本書150ページ)からか評価は芳しくありませんでした。安彦はこれを機にアニメから離れるべく「ヴィナス戦記」を最後にアニメーターとして筆を折ることになります。
清濁併せ呑む人間の歴史を描く
「ガンダム」と同時期に描いた「アリオン」で独自の漫画技法を確立した安彦は漫画家としてかじを切ります。「ナムジ」「虹色のトロツキー」など歴史をテーマにした作品を描き、評価されました。一連の作品に共通するのは「強いヒーロー、主人公を描くのがあまり上手くなくて」(本書322ページ)キャラクターを一人の人間として描くこと。
そこには歴史上の人物でも一側面だけではなく表裏包み隠さず描き、歴史の流れを浮かび上がらせる安彦のスタイルがあります。それは「ガンダム」のコミカライズ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」にも現れており、安彦なりの解釈にのっとった歴史観が見られます。
唯一無二の漫画家生活
本書冒頭の口絵には「ガンダム」の原画や漫画作品の表紙イラスト、巻末には短編漫画が掲載されており、その卓越した作画技術の一端がうかがえます。テレビ番組で紹介されたように、すべて筆で描く独自のスタイルを用いたその画業は唯一無二といえるでしょう。
天才的な腕を持ち、本書出版以降に劇場アニメ「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」を制作してなお、本人は「俺はせいぜいその程度だよ」(本書507ページ)と謙虚な姿勢を崩しません。本書でその理由を探るのも良いのではないでしょうか。(Re)
「安彦良和 マイ・バック・ページズ」安彦良和 石井誠 著 太田出版 2420円(税込)
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