山岡直子 東映アニメーションプリキュアワークス

 日曜朝の子どもを楽しませる番組の一つ、「プリキュア」シリーズ。それらは多くの人々による仕事によってクオリティが担保されているのです。「山岡直子 東映アニメーションプリキュアワークス」(以下、本書)はそのうちの作画に焦点を合わせた一冊です。


プリキュアのビジュアルを支えたアニメーターの仕事

 本書はアニメ「プリキュア」シリーズの作画に着目し、キャラクターデザインを担当したアニメーターの仕事を収集した資料集の一冊です。2020年に放送された「ヒーリングっど❤︎プリキュア」(以下、「ヒープリ」)でビジュアルのメインを努めた山岡直子による作画を集めたのが本書になります。

 描き下ろしイラストと設定資料、そしてアニメ原画をまとめて収録した本書。山岡本人と周辺スタッフのインタビューも含めその仕事を俯瞰する内容になっており、いかに「ヒープリ」の根幹をなすビジュアルイメージが生まれたかが垣間見られます。

いかに可愛く、そして親しみやすくするか

 20年以上続くシリーズの中で、メイン視聴者である就学前女児にアピールしつつ毎年変化をつけてキャラクターデザインをするのは並々ならぬ苦労でありましょう。本書ではキャラクターの設定資料に山岡本人によるコメントを付けて掲載されています。

 「ヒープリ」では「『医療』をモチーフにして(中略)白衣をベースに」(本書022ページ)デザインされたプリキュアたち。特に主人公のキュアグレース=花寺のどかは、「普通の人」というデザイン的に難しいオーダーの中で「初稿でいきなり『花寺のどか』爆誕ですわ」(同109ページ)と結果を出すことになりました。

今、描いてるって感じ!

 3DCGのアニメが増える中、手描きアニメはもはや日本の伝統芸。「プリキュア」もその例にもれず、本書後半は山岡による劇中の原画が占めます。総作画監督として変身シーンや必殺技など、作品の核となる部分はもちろん要所要所に必要な修正を行い、その作画クオリティを引き上げる役割の一端を掲載しています。

 もちろんアニメである以上画面を構成する他の部署との連携が必要ですが、その根幹には手作業による作画があるのは疑いようがありません。本書においては他の動画スタッフ向けか、キュアグレースの原画に「うしろ髪こんなイメージです」(本書092ページ)と参考のメモ書きが入っているのは作業の一端を感じさせます。

プリキュアの歴史をつなぐということ

 シリーズ1作目「ふたりはプリキュア」から作画を担当している山岡。本書に収録されているスタッフのインタビューから、作品のカラーに合うデザインとして山岡が選ばれた経緯が垣間見られます。作画とデザインでは取り組むスタンスが違うようで、「アニメ制作というものを俯瞰で見ることができた」(本書052ページ)作業だったようです。

 世界的に大変な時期に放送されることとなった「ヒープリ」。偶然にも「地球のお医者さん」(同110ページ)のコンセプトで子どもに希望を与える役割を担った本作は、プリキュアの歴史の中でも稀有な一作でありましょう。その「正統派ど真ん中ストレート!」(同109ページ)なデザインを堪能してはいかがでしょうか。

「山岡直子 東映アニメーションプリキュアワークス」Febri編集部 編 一迅社 2970円(税込)

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