バッタを倒すぜアフリカで

この本の著者、前野ウルド浩太郎は昆虫学者である。
彼はサバクトビバッタとの戦いを終わらせるべく、再びアフリカへ旅立った。
しかし、そこで彼はさらなる事態に巻き込まれるのだった!

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バッタとの戦いは、まだ終わっていなかった

 本書は、人気となった「バッタを倒しにアフリカへ」(以下、前作)の続編です。アフリカで猛威を振るうサバクトビバッタ研究のため単身アフリカの国・モーリタニアへ赴いた著者。前作ではその経緯や生活に重きをおいた内容で、研究の内容にあまり触れていませんでした。

 本書は著者の研究内容と(前作と同じく)それにまつわる裏話を挟んで、楽しい語り口に乗せて書かれており、そのボリュームは前作の倍!「すでに壮絶にバランスが悪く(中略)そこは著者と編集者の腕の見せどころである」(本書10ページ)と著者が心配するほどの力作になっています。

「バッタの婚活」が切り札

 「人類を苦しめてきたサバクトビバッタについて(中略)繁殖行動についてほとんど何も知らない状態だったとは!?全人類何してんのよ!」(本書67ページ)と著者が憤慨するように、サバクトビバッタがどう繁殖しているかを知るのは、その駆除に大きく役立つ研究であります。

 研究のため、砂漠の中でフィールドワークに明け暮れる著者がたどり着いた仮説が「群れているバッタの雌雄がそれぞれ棲み分けをして繁殖している可能性」(同74ページ)であり、その仮説を証明しようとした矢先「バッタがいるのに日本に一時帰国しなければならなかった」(同79ページ)事態に陥ってしまうのです。

研究の1号、運転の2号

 一時帰国した著者は、同業者に会うためアメリカに渡ってフィールドワークの経験を積み、モーリタニアでの調査からさらなる研究のためにモロッコやフランスへと、世界を股にかけてバッタのごとく飛び回ります。自らの婚活を犠牲にしてバッタの婚活を追いかけるその姿はまさにバッタ好きの鑑と言えましょう。

 さて、そんな著者の研究に欠かせない人物が運転手のティジャニ。モーリタニアでは著者の相棒として本書の表紙を飾るほど大きな役割を果たし、彼にまつわるエピソードで1章費やせるほどの好人物。現地では普通でも日本では驚くべき文化の一端がこの章でうかがえます。

やっぱり、バッタ博士はつらいよ

 順風満帆に思われた著者の研究も世界的なパンデミックのおかげで滞ることになり、またもやバッタの被害を手を咥えて見ざるを得ない状況に追い込まれます。そんな中著者はこれまでの研究を論文にまとめ、権威ある学術雑誌に掲載してもらおうと孤軍奮闘するのでした。その姿は、難しくもやりがいのある研究だけでは食べていけない学者という職業の側面を見せてくれます。

 その結果は本書を読んでもらうとして、「ノンフィクション・異世界転生」(本書8ページ)としてまとめられた本書、前作より専門的な記述も多いながらも読者に理解してもらうための配慮がなされているので、相変わらずの表紙にピンときたなら損はしないでしょう。

「バッタを倒すぜアフリカで」前野ウルド浩太郎 著 光文社新書 1650円(税込)

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