イチバン親切なデッサンの教科書

 素人にとってデッサンは堅苦しいイメージがあります。「デッサンが取れてない」「デッサンが狂ってる」との言葉は絵を描く人が凹んでしまうものです。「イチバン親切なデッサンの教科書」(以下、本書)はその重圧から楽になるための一冊かもしれません。

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デッサンは「見ること」から始まる

 本書は画家である著者がデッサンについて書いた技法書ですが、まず最初にデッサンの定義を「目に見えたものを(中略)平面に描き表し検証する行為」(本書16ページ)とし、描くことよりも描いた後に自分の思ったとおりに描けているか検証して修正する過程が重要だ、としています。

 本書では立方体、球、円柱、円すいなど基本的な形状を描くポイント、練習方法から始まって対象の質感を描くテクニックなどデッサンの手助けになる情報を、著者による猫のキャラクターを中心にしたイラストで親しみやすく解説しています。

石膏デッサンの必要性は?

 大半の人間は視界に入っているものを「見ている」とはいえません。それがデッサンでアウトプットするときに納得する出来にならない原因であり、まずは見る対象を認識することからデッサンは始まります。見て、描いて、修正するサイクルを繰り返すことだけがデッサンの上達方法であります。

 そのために用いられるのが石膏像。「形を『白い石膏』に置き換えることで(中略)純粋に形態を捉える研究ができる理想的な教材」「『正確に描けているか』『様々なアプローチができているか』を判断する基準」(本書86ページ)としてその有用性を解いています。

メイド服を描いてみるのもアリ

 対象を正確に捉えるための練習であるデッサンと対象的に、短い時間で対象の印象を捉えるクロッキー(ジェスチャードローイングとも)。アプローチは違えどデッサンの本質を考えればどちらも欠かせない練習方法であり、本書では人体を捉える方法としてクロッキーに重きをおいています。

 ただ「モデルを前にしたデッサンだけがトレーニングの場ではありません」(本書154ページ)と本書ではデッサンを元にした練習方法や想像で人物像を描くことを推奨しています。その中でも「架空のコスプレイヤー」(同168ページ)との設定でメイド服やアニメキャラのコスチュームを着た人物像を描く見本として、どこかで見たキャラクターの衣装が描かれているのは、専門学校の講師をしている著者ならではでしょうか。

実は対称的?なヒトの体

 人体を描くためには観察だけでは多少心もとないわけで、本書でも美術解剖学の知識をエッセンスとして解説しています。特徴的なのは他の生物と比較して人体を捉えていることで、胴体と四肢を比較してみると魚類では胴体は体のほとんどを占めており、四肢はヒレの部分でしかありません。

 さらに「もしかしたら脊椎動物は前後も対称になっているのでは」(本書190ページ)との発想から描かれた図は、複雑に見える生物の構造も実は単純な概念で表されるのではないか、と人体を捉えるハードルを下げる役割を果たしているようにも思えます。

 デッサンは描くために必要な練習でありますが、本書はその取り組み方を見直すきっかけになるのかもしれません。(Re)

「イチバン親切なデッサンの教科書」上田耕造 著 新星出版社 2145円(税込)

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