やわらかい頭の作り方

 世の中には、極端な考え方をする人がいます。その人の中で完結していればよいのですが、他人に自らの考えを押し付けることは社会に悪影響を及ぼす可能性もあります。「やわらかい頭の作り方」(以下、本書)は人間の思考を固定化させないための考え方を示すものです。

やわらかい頭の作り方 ――身の回りの見えない構造を解明する税込715(2024/11/11時点)

人間の考え方には、クセがある

 本書はよく言われる「頭がやわらかい」という表現を、

  • 自分の考えに固執しない
  • 旧来の慣習にとらわれない
  • 新しく個性的なアイデアを創出できる

 (以上、本書12ページ)と定義し、そのために必要なことを提示するものです。

  そのためにはまず人間の思考に癖があるのを知らねばなりません。「集団で行動する場合には、このような思考の癖が『頭の固さ』となって悪さをします」(同16ページ)というように、社会における理不尽はここに起因すると考えられます。本書ではそんな難しそうな問題を、ヨシタケシンスケによる少し皮肉の効いたイラストとともに読み解いていきます。

人間の思考は、物理法則に沿っている

 この世を支配する物理法則は人間の心にも応用できる、という意見には賛同しかねるかもしれません。しかし「水は低きに流れる」という言葉は、安易な方向に流れたがる人間心理を重力に従う水の流れになぞらえたものです。本書ではそんな物理現象のような心の働き、先の「考え方のクセ」を提示していきます。

 全体から見ても、その細部から見ても同じ形を繰り返す「フラクタル構造」を人間に置き換えると、「単なる一個人の悩みだって、実は世界平和の実現並みに難しくて複雑かもしれない」(本書91ページ)ように見えてきます。このようにものの見方を変えることが「やわらかい頭」に近づくのです。

何事にも、良い面と悪い面がある

 「一見プラスに見える事象も別の視点から見ればマイナスに変わります」(本書94ページ)ということは以外に知られていないこと。成功と失敗、常識と非常識、自由と不自由、どちらかが良くてどちらかが悪いと単純に決めることは正しいようで実は間違っているのです。

 それらは「0か100か」という2つの価値しかないのではなく、その間を揺れ動くグラデーションのようなものであり、現在の事象がどの位置にあるのかを考えることにより「単に業界や職種のみで仕事を選ぶのではなく(中略)意外に自分の性格や好みにあった仕事を見つけられる」(同203ページ)かもしれません。

トンデモな考えに陥らないために

 人間はどうしても「みんな『自分は特殊である』と思っている」(本書44ページ)わけで、(アイデンティティの確立には必要なことですが)それゆえ自分中心に考えてしまいがちです。それを引きずるとトンデモな考えに陥り、身の回りに影響を与えてしまうおそれがあります。

 それを解決するのが「やわらかい頭」であり、そのために大切なのは「まず頭の柔軟性がない(中略)自分を認識する」(同205ページ)ことなのです。そこに至るまでが難しいことなのですが、本書は親しみやすさでそのハードルを下げてくれます。

「やわらかい頭の作り方」細谷功 著 ヨシタケシンスケ 絵 ちくま文庫 792円(税込)

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