スーツアクターの矜持

 映画「シン・仮面ライダー」では特撮よりも俳優による格闘シーンに重きが置かれ、まるで本家「仮面ライダー」のような泥臭い戦闘の再現を目指しているようにも見えました。「スーツアクターの矜持」(以下、本書)は特撮番組の重要なポジション・スーツアクターの実像に迫った一冊です。

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スーツアクターの矜恃 [ 鈴木 美潮 ]
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スーツアクター、世界を駆ける

 本書は長年の特撮ファンである著者が、特撮番組でヒーローや怪人、戦闘員などのスーツを着てアクションを繰り広げるスーツアクターにインタビューし、その素晴らしさと過酷さを伝えるものです。長らく作品の裏方として活躍する彼らに「スーツアクター」の呼び名が与えられたのは、ごく最近の話であります。

 90年代、日本のスーパー戦隊シリーズを「パワーレンジャー」としてアメリカに輸出する際、現地の俳優では日本式のアクションができなかったため日本からスーツアクターを呼んで撮影に望みました。以降、日本特撮アクションの独自性が海外の子供を虜にし、世界に誇る文化としてその名を知らしめたのです。

君はなぜ演じ続けるのか、命をかけて

 そんなスーツアクターの流れをさかのぼると、1958年の「月光仮面」に行き着きます。覆面姿の月光仮面を演じたのは主人公・祝十郎を演じた大瀬康一。覆面でのセリフやアクションなど苦労も多かったようで、それ以上に苦戦したのは66年放送の「ウルトラマン」でウルトラマンのスーツに入った古谷敏。初めてづくしの撮影現場で装着者の着心地を考慮していなかったスーツの中「二〜三分で息が上がるくらい苦しい」(本書55ページ)環境であの傑作が生まれたのです。

 そして71年、「仮面ライダー」で本郷猛を演じる藤岡弘(当時)が仮面ライダーのスーツを着て戦闘シーンに望んでいましたが、撮影中の事故で大怪我を負い仮面ライダー2号の登場に至った時点で、変身前を演じる俳優と変身後を演じるスーツアクターに分けて撮影する方式に移行していきます。

体の傷を恐れない、まだ見ぬ映像を撮るために

 その体制を支えたのが大野剣友会の存在。時代劇の殺陣を中心に活動していた彼らは「危険と隣り合わせのアクションにも果敢に挑んだ」(本書104ページ)がゆえ、高所からの飛び降り、大爆発をすり抜けての疾走、必殺のライダーキックなど、迫力ある映像を当時のお茶の間に届けられたのです。

 しかしそれは、現代ではパワハラとも取られる過酷な撮影環境で生まれたものであります。なぜ危険を犯してまで撮影を進めたのか。そこには特撮番組が「ジャリ番」と呼ばれ、テレビ番組の中でも一段下に見られていた状況がありました。「誰も見たことのないアクション場面を作りたい」(同252ページ)との想いの下、撮影現場が一丸となって取り組んだ結果が昭和特撮番組でのアクションといえるでしょう。

日曜の朝は、スタッフロールを見よう

 そんなスーツアクターの活躍は、半世紀たった令和になっても続いています。デザイン優先で視界の確保も難しいマスクを被ってのアクションは、同じく撮影に望む仲間の協力なしには成し得ない難事であり、そのうえで(高岩成二に代表される)作品に沿った演技をもこなす器用さは、評価されるにふさわしい職業と断言できます。

 それでも日本では危険手当がつかないなど、その仕事が認められているとは言い難い状況です。本書を読んで、日曜朝の特撮番組中でのスタッフロールに彼らの名前を確認しその仕事に思いを馳せ、いかばかりかの理解と称賛を向けてほしいものです。(Re)

「スーツアクターの矜持」鈴木美潮 著 集英社インターナショナル 1980円(税込)

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