普段作っているプラモはロボットなど人型のもので、今でこそ出来のいい手の部品がついているものの、昔のキットなどを手に入れると、握りこぶしのみだったりします。そうなると手首を自作したくなるものですが、素人には難度の高いところ。ましてや最近はやりの美少女系キットに手を出したら、顔という、手と並んで難しい場所に直面することになります。
観察眼とセンスがあれば、その二箇所を作るのはなんとかなるのでしょうが、そのどちらも自信のない凡人には資料を当たるという選択肢しかありません。
というわけで、人型のものなら人間を参考にすれば良い、と美術解剖図に頼ることになるわけですが、この手の本は種類が多く、本格的な美術書からマンガ系の参考書まで様々なものが出版されています。その中からさしあたってバランスが良いと思われる一冊がこの「ソッカの美術解剖学ノート」(以下、本書)です。
(「美術解剖図」には定義が様々ありますが、ここでは「骨格と筋肉を中心とした、人体の構造を解説した書籍」としています)
厚い!重い!美術解剖図
著者は韓国のイラストレーター。「『先輩、おススメの簡単な解剖学の本ありませんか?』(中略)『待ってな、俺が書いてやるから』」(本書648ページ)そんな軽いノリから始まって、9年の月日をかけて書き上げた力作です。
648ページ?そこに気づいた人は鋭い。本書は650ページを超えるボリュームで、標準的な美術解剖図の書籍と比較して二倍以上に相当します。その分重いし、お値段もそれなり。この時点で尻込みする人もいるかもしれません。
ソッカって、裏表紙のオッサンかよ!
650ページも難しいことがびっしり書かれているのか…と思えばさにあらず。著者の分身であるキャラクターが、他のキャラにいじられながら人体の構造を解説する漫画が大半を占めます。もちろん、著者が書き下ろした骨格や筋肉のイラストもふんだんに描かれ、美術解剖図の面目躍如といえます。
とはいえ、人体の構造は複雑怪奇。その点においてもきちんと解説していますが、著者が難しいと思ったり、わかりにくいと思ったところは素直に「難しい!」「わからん!」と吐露していたりするのが好ましいところです。
「ソッカの美術解剖図のヒミツ」
どうも、この本の雰囲気に見覚えがあると思ったら、幼少期に読んだ「学習まんが」を彷彿とさせます。何の気なしにパラパラとめくって読んでいると、直接関係ない豆知識を目にするのも一緒。また、人体を模型やおもちゃと比較して解説する箇所も多く、そういう意味ではとっつきやすい本に違いありません。
しかも内容に関しては決して他の美術解剖図に引けを取らないものになっています。従来の美術解剖図では「人体はこうなっている」というところから書かれていますが、本書の独自な点として、さらに一歩踏み込んで「じゃあ、なぜこんな形になっているのか?」という視点を取り入れています。各部の構造に取り組む前に、その点が丁寧に解説されているので、遠回りとも思えますが、結果的に構造がわかりやすくなっています。ページ数が増えるのも仕方のない所でしょう。
そばにおいて、少しずつ読んでみよう
医学生でもない限り、人体構造に関する知識を詰め込むことはそれほど求められません。だから、この本を隅から隅まで読み込んで一字一句覚える必要はないでしょう。でも、気の向いたときにすぐ読めるようにして、気になるところだけ少しずつ読んでいけば、気がつけば人体についてある程度の理解が身につくはずです。本書はそういう使い方がふさわしいと思います。
ただ、片手で持ったり、寝転んで読むのに向かないボリュームであることは否めません。残念ながらここが本書最大の難点でしょう。
「ソッカの美術解剖学ノート」ソク・ジョンヒョン著 チャン・ジニ訳 オーム社 6700円+税