「指輪物語」が図書館棚の守護神だったのも今は昔、いわゆる「剣と魔法のファンタジー」(一般的には「ヒロイックファンタジー」)が日本に根づいてから40年近くになろうとしています。「RPGヒストリア」(以下、本書)は黎明期からのコンピューターRPGの歴史をたどる一冊です。
コンピューターRPGはパソコンとともに始まる
本書は80年代から90年代までのコンピューターRPG(以下、CRPG)の傑作を紹介しながらCRPGの変遷を紐解くものです。個人で所有するパソコンの誕生とともに、CRPGはアドベンチャーゲームと並んでコンピューターゲームの代表的なジャンルとして登場しました。
中でも「ウルティマ」「ウィザードリィ」はCRPGの基礎を築き上げ、人気シリーズとして長らくプレイヤーを楽しませました。日本でも80年代にパソコンが普及するにつれ同作が移植されて定番ゲームとなりましたが、まだ当時の日本では、CRPGは一般的と言い難い状況だったのです。
だったら、パソコンにTRPGやらせりゃいいじゃん
本来RPGとはテーブルトークRPG(以下、TRPG)のことであり、そこではプレイヤーの他にゲームマスター(以下、GM)と呼ばれる進行役を必要としていました。欧米で生まれた中世ヨーロッパのような世界観のTRPGを参考に、GMと乱数をはじき出すサイコロの役目をパソコンに負わせる発想でCRPGは生まれたのです。
TRPGが普及していなかった80年代前半の日本では、アクションゲームと組み合わせた「ザナドゥ」「ハイドライド」、SFや当時のロボットアニメをモチーフとした「地球戦士ライーザ」「コズミックソルジャー」などが日本製CRPGの傍流としてあり、「ブラックオニキス」「夢幻の心臓」などの正統派作品と棲み分けていました。
RPGの教科書「ドラクエ」の衝撃
その状況を覆したのが86年発売のファミコンオリジナルCRPG「ドラゴンクエスト」(以下、「ドラクエ」)であります。「ウルティマ」「ウィザードリィ」のいいとこ取りなシステムを採用した「ドラクエ」は、制作者の堀井雄二による啓蒙活動によってCRPG未経験のファミコンユーザーに受け入れられ、「同Ⅲ」の大ヒットがパソコン市場とは比べ物にならない規模で「剣と魔法のファンタジー」の概念を広めました。
そんな「ドラクエ」の特徴といえば、徹底して初心者向けに作られたこと。特に初期シリーズではゲーム冒頭から操作法を習うチュートリアル要素を含め、「同Ⅱ」ではパーティプレイ、「同Ⅲ」ではパーティ編成とシリーズごとに新要素を盛り込んだ上で、プレイヤーにCRPGの何たるかを教える「RPGの教科書」の役割を果たしたといえるでしょう。
そして、JRPGへ
以降CRPGは家庭用ゲーム機でも定番のジャンルとなり、「ファイナルファンタジー」「MOTHER」「ファンタシースター」など傑作を生み出していきます。ただ「マイト&マジック」「ダンジョンマスター」など欧米のCRPGが(研究中のメタバースのような)別世界を構築する路線に対し、
- 漫画「デビルマン」のように現実世界で悪魔がはびこる様子を描いた「真・女神転生」
- システムは定番のCRPGながら、中盤のどんでん返しによって傑作と称される「ヘラクレスの栄光Ⅲ」
のように日本のCRPGは(スーファミを中心に)シナリオを重視する傾向で発展してきました。その独自の流れはやがて「JRPG」と呼ばれるようになり、世界で認められるようになっていきます。
本書は「ポケットモンスター」「天外魔境II」のような歴史的作品や「THOR〜精霊王紀伝」「カオスエンジェルズ」など、埋もれさせるには惜しい作品も紹介されており、CRPGが盛り上がっていた時代の熱気を思い出させてくれます。(Re)
「RPGヒストリア」マイウェイ出版 1590円(税込)