前回「ソッカの美術解剖学ノート」を紹介した時に、寝転んで読むのには向かないと書きました。気が向いた時に寝転がってでも読める美術解剖図はないものか…と思った矢先見つけたのがこの「モルフォ人体デッサン」(以下、本書)であります。
モルフォロジーとは何?
タイトルになっている「モルフォ」というのはモルフォロジーの略らしく、「医学的見地から人体を細分化する『解剖学』に対して、より総合的でアーティスティックなアプローチとして『モルフォロジー(形態学)』という言葉を使っています」(本書8ページ)ということで、モデルをデッサンし、その形態から内部にある構造を読み取って描き出す「エコルシェ・デッサン」を中心とした構成になっています。
なお、「伊豆の美術解剖学者」として知られる加藤公太の著作によれば「モルフォロジー」はフランスでの呼び方であって、日本での「美術解剖学」と大差はないようです。
骨、筋肉、時々図解
本書はデッサン集とうたっているだけあって基本的な解説は序盤のみ、ほかはエコルシェデッサンがこれでもかと載っています。エコルシェとは、学校の人体模型を想起させる、皮膚を除いて筋肉をむき出しにした人体像のこと。本書ではモデルを使ったデッサンの一部、もしくは全てに筋肉や骨を書き込み、それに関する説明がなされています。
中には、説明がなくデッサンの特定部分にアルファベットと数字が振られているだけのページもあります。アルファベットは骨、数字は筋肉を指すもので、対応表は表紙の折り返しの裏にあり、それを開いた状態で照会することもできます。
筋肉だけの人物と脂肪だらけの人物
そんなわけで筋肉(時には骨)むきだしの人物デッサンが満載の本書ですが、人体模型や医学用の解剖図のように彩色されているわけではなく、著者が描いた(と思われる)デッサンなので、思ったより不気味ではありません。(顔の筋肉の描写や顔だけ骸骨で描かれているのはちょっとドキッとしますが)
本書は男女問わず様々なポーズをとったデッサンに、どのように筋肉がついているか、ポーズに合わせてどのように変化していくのか、を徹底して描写しています。一般的な解剖図のように直立姿勢の図に筋肉が描かれているものとは一味違い、前述の通り筋肉と骨にはナンバリングされているので、同じ筋肉でも角度やポーズによって様々な見え方をしているのがよくわかります。
さて、本書の一部には脂肪について解説された箇所があります。一般的な美術解剖図ではあまり重視されていないところですが、人体にどう脂肪が付着しているかわかるように、肥満体の人物が容赦なく描かれています。のちに独立した書籍として刊行されるくらい徹底されているので、人によってはこっちのほうが正視できないかもしれません。
サイズ的にもお手頃な美術解剖図
本書のサイズはA4版。他の美術解剖図に比べると小さめです。なので冒頭で挙げた「寝転がりながら読む」という用途にはふさわしいと思われます。しかも新装コデックス版ならページを全開にしても壊れない製本になっており、内容が同じ分入手するならこちらをお勧めします。
最後に、本書において直立している人体デッサンは換算すると約1/10になっているので、フィギュアなどを作る時にはサイズの把握に役立つのではないかと思います。
「モルフォ人体デッサン」ミシェル・ローリセラ著 布施英利監修 グラフィック社 2000円+税(新装コデックス版は2200円+税)