モンスター解体図鑑

 「ダンジョン飯」「悪食令嬢と狂血公爵」など、ファンタジー世界で食をテーマにした作品は増えています。「モンスター解体図鑑」(以下、本書)はそんなファンタジーにおけるモンスターたちを食せるものとして捉え、そこに至るノウハウをしたためた一冊です。


これで君も冒険者になれる?

 本書は物語や妖怪について研究する監修者によって紡がれた、ファンタジー世界におけるモンスターたちの処理方法を解説したものです。本書では冒険者をモンスターを狩って生活する者と捉え、そのために何が必要かを冒険者ギルドの基礎事項として提示しています。

 (設定にもよるが)モンスターを討伐してもお金を落としてくれるわけではないわけで、その肉体もしくは一部に価値があるからこそ冒険者の生活が成り立つのです。本書はモンスター図鑑であるとともにその構造と部位の活用法を示した一味違うものとなっています。

食べてみたら、スライムだった件

 本書では最初に扱われるのはスライム。「ドラゴンクエスト」では最弱のモンスターとして登場したためか、本書でも初心者向けの討伐対象となっており、その体液を採取し撥水剤、化粧品、果ては食用に加工される汎用性の高い存在として描かれています。

 同様にメジャーなモンスターであるスケルトンは「外見は人間の骨格に酷似しているが(中略)非有機性の疑似生命であり、死者との関係はない」(本書037ページ)本書独特の解釈とともに、その骨は肥料や出汁として活用される旨が記載されています。

ケルベロスか、腕試しには丁度いい

 本書ではモンスターの危険度に応じて章わけされており、先のスライムがE級、以降クラスが上がっていき、A級以上のS級まで扱われています。A級には先のスケルトンと同様の扱いでゴーレムがおり、さすがに食用にはならないものの「がっちりとした殻の奥には宝がたっぷり」(本書092ページ)だそうで、価値の高いモンスターであります。

 同じA級ではケルベロスがエントリー、伝説にある「地獄の番犬」というよりは多頭巨大狼の趣ですが、毒を持つ尾など強敵感は健在です。その牙や強靭な毛皮を求めて挑む冒険者は「素材の価値を損なわずに回収して届ける技術と意識が求められる」(同018ページ)高度な仕事でもあるのです。

ファンタジーでも現実でも、食べることは変わらない

 本書で扱うモンスターは(ゴーレム系を除き)現実に生息する動物の延長線上にあるものが多く、それは本書の解体手順が現実に準じていることに現れています。ジャイアントクラブやクラーケン、果てはコカトリスまで(大きさの違いはあれ)食用となるまでに幾多の工程を経るのはファンタジーでも現実でも変わりありません

 比較的細部を省略して描かれているとはいえ、本書の内容は他種生物の命を奪うことで人間生活が成り立っていることを示しており、現代社会に生きているとその恩恵を受けていることを忘れがちになります。ファンタジーはそんな当たり前のことを思い出させてくれる機能を果たしているのでしょう。

「モンスター解体図鑑」伊藤慎吾 監修 カンゼン 2310円(税込)

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