モダンメカニクス 世紀の発明大図鑑

 都市に張り巡らされた透明なチューブの中を走る高速列車、それをすり抜けるように飛ぶエアカー、それを見守る銀色の全身タイツに身を包んだ人々…70年代、子供向けの本に描かれた未来世界のグラビアは子供心をわくわくさせたものですが、それより遥か昔、アメリカでも同じような空想をビジュアル化した雑誌がありました。「モダンメカニクス 世紀の発明大図鑑」(以下、本書)はそんな雑誌のイラストレーションを集めた本であります。

人はそれをレトロフューチャーと呼ぶ

 1930年代、技術の最先端をゆく国となったアメリカでは、科学や発明などを扱った雑誌が創刊されました。そこには様々な技術の発展によって、来るべき未来が描かれていました。本書ではそんな未来技術のイラストを、現実の技術と比較しつつ紹介しています。

 そこには現在と地続きのものもあれば、今となっては到底あり得ない発想のものもありますが、共通しているのは技術の発展がもたらすバラ色の未来が描かれていたことです。

 その反面、二度の世界大戦から冷戦に至る社会情勢を反映してか、当時の雑誌には新技術を使った超兵器というのも定番の記事として載っているのです。そんな時代の不安を象徴するように、かつて毒ガスが使用された第一次世界大戦後の雑誌では、新型ガスマスクの記事が多く載っているのが印象的です。

奇天烈マシン大集合

 軍事用であれ一般用であれ、本書には大胆な発想でデザインされた乗り物が多数登場します。ただ理論は新しくても当時の技術で設計されているので、まさにレトロフューチャーなデザインのマシンが目白押し。現在の目で見ると微笑ましいものが多くあります。

 しかしそのデザインには、第二次世界大戦をはさんで変化が見られます。大戦前には牧歌的なものが多かったのが、戦後には現実的なデザインになっていき、実在してもおかしくないものが出てきます。大戦における技術の向上が影響しているのかもしれません。

博士!それでは動きません!

 そんな未来のマシンでも中には素人発明家が考えたものもあり、物理的に不可能なものや、設計に致命的なミスがあったりもします。本書ではそんな発明に対して容赦なくツッコミのコメントが入っています。例えば、

  • ジェット噴流推進船のデザインに対し、「貨物搭載量が減る設計であることに気づいてない呑気さが微笑ましい」(本書32ページ)
  • プロペラ推進式のスキーに対し、「転んだ途端、大変な悲劇の予感!」(同37ページ)
  • 巨大な上陸作戦用輸送機に対し、「敵に対する的の巨大化というリスクは忘れていた模様」(同46ページ)

 などなど。ただ、そういうデザインに限って漫画やアニメに出てきそうなかっこよさを持っているもので、例として本書では一輪で走行する月面探査機のイラストと、それを参考にした(と思われる)日本製のプラモデルを紹介しています。自走機能を持つプラモデルに補助輪がついていることに対し、「残念ながら地球上では一輪車走行は不可能だった」(同70ページ)とのコメント。やっぱり容赦ない!

その発想に現実がどこまで追いついた?

 さて、本書では乗り物だけではなく、生活に関する発明のイラストも掲載されています。無線から始まり、ラジオ、テレビと続く現代につながる文化の原型がすでに構想されていました。さすがにスマホまでは予想できなかったようですが、電子楽器、ファストフード、ヘルスメーター…現在では当たり前のものが約80年前に考えられていたのは驚きです。

 とはいえ現代が「バラ色の未来」かと問われると、お世辞にもそうは言えないでしょう。本書に掲載されたレールガン(本書44ページ)の研究は続いていますし、へんてこな形をした垂直離発着機(VTOL、同10ページ)もオスプレイとして実現、兵器の需要は未だにあり、平和というには程遠い状況であります。また、本書のように原子力を完全に制御(同66ページ)できるわけでもなく、再生可能エネルギー(同38ページ)もまだ普及しているとは言えません。

 それでも、先人の想像力が現在の世界を形作ったのは本書を見ても明らかです。だからこそ現実を見据えた上で、かつての彼らのようにある種能天気な希望を持って未来を迎えたいものです。

「モダンメカニクス 世紀の発明大図鑑」スタジオ・ハードデラックス 編 世界文化社 1800円+税

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です