80年代、ガンプラを改造しようとしても当時の子供にとって模型雑誌の記事はハードルが高く、基本的な情報を収めた書籍はほとんどありませんでした。「Let’sTRYビギナーズ!!!」(以下、本書)は模型雑誌で連載されたプラモの基本的な作業や改造について書かれた記事の単行本です。
プラモに手を加える楽しさを伝えて20余年
本書は模型雑誌「月刊モデルグラフィックス」で連載されている模型記事の単行本、その一冊目です。現在まで四半世紀近く続くプラモの(主に)改造テクニックを解説した記事の中から1998年からのノウハウ漫画と2006年からの実践的製作記事で構成され、12年までの連載を収録しています。
本書の特徴は分解写真により各工程を解説しており、文章では伝わらない具体的な工作方法を明確にしていること。それゆえ1つのキットを組み上げるまでの期間が長く、1年以上連載が続くのがほとんどでありました。(連載ではガンプラ以外も製作していますが)本書では4つ(+1)のガンプラの製作工程が収録されています。
昔のキットも捨てたものではない
本書で扱うガンプラは(連載時の)最新キットであるHGUC・1/144Sガンダムですら2001年発売のものであり、比較的古めのキットが多いのです。それらは手を加える余地があり、モデラーとしては腕の振るいがいのあるキットであるわけで、本書の趣旨にふさわしいセレクトといえるでしょう。
特に当時品のMSVキットを使ったものやHGUC発売前にHG(初代)ZZガンダムを制作した記事は、あえて「もとのキットの本当によいところ」(本書85ページ)を活かしながら現在標準的な可動や変形ギミックを盛り込んだものになっており、工程を見るだけでも楽しめる構成になっています。
まんが初めてのプラモ物語
本書の後半にある漫画版は初心者向けに(先のSガンダムの記事のように)最低限キットに手を加えるべき部分から各種の素材、仕上げ、工具まで様々な模型の基本を半ページの漫画で解説しています。やはり文章よりも絵で示されるのはわかりやすいうえに(ちょっと古めの)ネタを仕込んでいるのはさすがといったところでしょうか。
ただ20年以上前の情報に基づいているので、ガレージキットの型取りやバキュームプレスなど現在ではメジャーと言い難い工作法もありその点では実践的ではないかもしれませんが、ヤスリがけや塗装法など基本的な工程や失敗したときの修正法まで、現在でも通用するテクニックが満載です。
改造は、キットとの対話である
実践編の最後を飾るのは往年の傑作、1/60ガンダム。40年前のキットを仕上げるにあたって当時の書きおろしイラストのイメージで制作された本作、仮組みで問題点を検討しつつ「うまくバランス調整をしてやると古いキットもここまでバケる」(本書98ページ)好例であります。
近年の連載では古めのキットを使って初心者には真似できない大改造を行う印象がありますが、いずれも本書に収められた基本的な方法を用いての試行錯誤によって完成するのは変わりません。初心者でも「すべてをマネする必要はなく自分にできそうなものから取り入れていけばいい」(同3ページ)というスタンスで、一歩を踏み出すために参考になる一冊です。
「Let’sTRYビギナーズ!!!」伊藤霊一 著 大日本絵画 4180円(税込)