英語に限らず、外国語を学習するのは大変なもの。でも、ラテン語を知れば少し楽になるのでは?「世界はラテン語でできている」(以下、本書)はヨーロッパ言語の元になったラテン語の身近さ、そして面白さを解説する一冊です。
世界はラテン語でできている税込990円(2024/05/13時点)ラテン語って、どこの言葉?
本書はラテン語の魅力をSNSで発信する著者が、英語や他言語の基礎となっているラテン語が現在も使われている例を示して「ラテン語がいかに身近な存在であるか」(本書8ページ)を解説し、まさにタイトル通りに世界の言語を構成していることを証明する一冊です。
「由来は古代の地名『ラティウム(Latium)』で、現在のイタリア中西部にあたります。まさに古代ローマはこのラティウム地方の数ある共同体の一つとして始まった」(本書44ページ)のちに版図を拡大したローマの言葉を発端とするラテン語。歴史は進み、ローマ帝国が衰退しても重要な文にはラテン語が使われていました。
ミシュランマンはラテン語で「飲むべし!」
ローマの隆盛とともにヨーロッパ中に広がったラテン語は、ヨーロッパ各国による大航海時代とともに新大陸へと渡り「ラテンアメリカ」の言葉を生み出すまでに至り、世界中に影響を与える言語となりました。西洋文化が輸入された我が国日本でも、ラテン語の影響はとどまるところを知りません。
例えばタイヤメーカー・ミシュランのキャラクター、ミシュランマンことビバンダムは「初期のポスターに(中略)ラテン語で nunc est bibendum『今こそ飲むべし』と書かれていた」(本書152ページ)ことが由来で、(なぜ「飲むべし」なのかは本書を読んでもらうとして)掲載されている当時のポスターの中では、現在とは似ても似つかないタイヤ人間が乾杯しているのが見られます。
カワイイ?日本人とラテン語
英語を始めとする外国語の中にラテン語が紛れる中、生物種の学名がラテン語なのは日本人にもよく知られているでしょう。本書で挙げられている学名に「Sasayamamylos kawaii」(本書130ページ)と名付けられた古代哺乳類があり、化石が発見されたのが兵庫県篠山市であることと、霊長類学者・河合雅雄にちなんで名付けられたものなのです。
なぜ「河合」が「kawaii」になるのか?「人名をiで終わらせると『〜の』というラテン語っぽくなる」(同131ページ)、つまり「kawaii」は「河合の」という意味になり、偶然「カワイイ」という学名になった、というわけです。
そんなことを聞くと「日本語とラテン語はつながりがあるのではないか?」と思ってしまいがち。本書でもそんな説を唱える本に言及していますが、「文法上のツッコミどころが、多々見られます」(同194ページ)と、著者にとってはトンデモ本の部類だったようです。
ラテン語は、古語であっても死語ではない
本書巻末には漫画家・ヤマザキマリと著者の対談が収録されています。現在のイタリアでも「日本人だと、あえて古語のように喋るのに近いイメージ」(本書203ページ)でラテン語を使う、と語るヤマザキに対し「ラテン語はやはり死語ではない」(同202ページ)との思いを著者が抱くのもむべなるかな。
日本ではファンタジーなどの創作物において、いわゆる古代語の扱いでラテン語が使われることもままありますが「この本でも多数、日本語の中に浸透しているラテン語を紹介されていますが」(同208ページ)と、身近な横文字としてのラテン語を知ることで、その印象がずいぶん変わるかもしれません。
「世界はラテン語でできている」ラテン語さん 著 SB新書 990円(税込)