「ぐりとぐら」「ひとまねこざる」など幼少期に出会った絵本は数あれど、かこさとしほど(名前も含めて)インパクトがあった絵本はそうありません。「かこさとしの世界」(以下、本書)はそんな絵本作家の生涯を俯瞰した一冊です。
科学と遊びを通して子どもに向き合う
本書は、2018年に逝去された絵本作家・かこさとしを扱った展覧会の図録です。「からすのパンやさん」「だるまちゃんとてんぐちゃん」などの名作絵本を生み出し、それ以外にも子どもに向けて科学や美術をわかりやすく紹介した絵本で好評を博したかこさとしの偉業を、本書は原画や数多くの資料で紐解いていきます。
創作が好きだったかこは戦後、「貧困地区に(中略)人的活動を通じて人々の生活向上を助ける福祉活動」(本書34ページ)セツルメントに参加、子どもと向き合う中で彼らのためになるものを提供したい想いが育まれていきます。それが絵本創作の原動力となりました。
だるまちゃんと日本文化ちゃん
かこの代表作の一つといえば、「だるまちゃん」シリーズ。だるまの子ども・だるまちゃんを主人公にした絵本は晩年まで続き、ロングセラーとなりました。だるまちゃんの相手となるキャラクターはほとんどが日本文化をモチーフにしたもので、日本の子どもに自国の文化を教える役割も果たしました。
作品に盛り込まれたもう一つの特徴は、遊びを通して創意工夫を育む姿勢。「子ども時代の遊びの積み重ねが、社会性を持った生き物、人間を育てていく」(本書86ページ)との信念が、試行錯誤を重ねて遊びを生み出していくだるまちゃんたちの行動に現れています。
自然の姿をわかりやすく
かこの絵本もう一つの柱は、自然科学を子どもに伝える作品であります。絵本デビュー作「だむのおじさんたち」から始まる、徹底した取材に基づいて身の回りの物事を子どもにもわかりやすく解説する科学絵本は「はははのはなし」から実質的な遺作「みずとはなんじゃ?」まで連綿と続きました。
また美術に造詣のあったかこは、「うつくしい絵」「すばらしい彫刻」など子ども向けに美術入門となる絵本を制作しています。先の「だるまちゃんとかみなりちゃん」の中にロダン作「青銅時代」が紛れ込んでいたりするのは、かこなりの遊び心なのでしょう。
子どもにとってちょうどいい情報量
しかし、それだけで子どもを惹きつけるのは難しいもの。かこの絵本は子どもの興味を引くものを積極的に盛り込んでいます。「どろぼうがっこう」のように親が眉をひそめそうな題材を選んだり、虫歯菌を主人公にした「むしばミュータンスのぼうけん」など、意外性を持った作品づくりがその最たるものでしょう。
「ぐりとぐら」と同様に、子どもにとってちょうどいい情報量を詰め込んだ絵本を送り続けたかこさとし。それらは未来を担う彼らに、生きる力となる知識を届けたいかこなりの方法でありました。少なくともかこが伝えたメッセージが現代を生きる人々の役に立っている、と思いたいものです。
「かこさとしの世界」かこさとしの世界 プロジェクトチーム 著 加古総合研究所 監修 平凡社 2200円(税込)