人間がいるはずの風景にたたずむその猫は、何を思ってそこにいるのでしょうか。「黒山キャシー・ラム作品集 Life goes on」(以下、本書)は人間のように暮らす猫などの動物をモチーフにイラストレーションを描く作家の作品集です。
可愛い猫ではいられない
本書は香港出身のイラストレーターが描く動物たちの画集です。鉛筆を基本画材にし、ラフに描いているようで細かいディテールや黒く塗りつぶされたタッチなどの上にキャラクター化された動物たちが乗ることで、独特の雰囲気が醸し出されています。作中に英語でセリフがついているものには日本語訳がつくので、ありがたいところ。
そのメインモチーフは猫。著者の飼い猫・モブをモデルに描かれた猫たちは、その寸胴と視線が定まらない目が特徴的な、単純に可愛いとは言い難いものですが、トイレに座ったり、カップラーメンをすすったり、果てはライフルを構えて狙撃しようとする姿はユーモラスかつ毒のある作風に相応しいものであります。
この、リアルでとぼけた動物たち
もちろん猫だけではなくカピバラ、犬、馬、そして著者の分身のように描かれるカラスなど、様々な動物たちが人間のような生活を送る姿が描かれています。カレンダーのシリーズはその最たるもので、基本的にリアルな動物の中にアクセントとしていつもの猫が傍らにいるのが特徴です。
本書にはイラストだけではなく動物たちのフィギュアも掲載されており、肉をくわえたコーギー犬やカピバラたち、天丼を背中に乗せて胴体に「泥棒」と書かれた猫のフィギュアは、イラストと違ってユーモアの部分が強調されている印象があります。
もしかして、猫のオラオラですか?
さて、本書の作品には日本文化の影響が多分に見られます。カピバラが回転寿司にいる作品には店内に日本語表記がされており、同様にヒョウのおでん屋、猫のたこ焼き屋、銭湯に動物が浸かっているなど、日本人には身近に感じられるでしょう(『Snack Time Craw』(本書52ページ)でカラスが食べているスナックは『ドデカイラーメン』のようですが…)。
また漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンド・スタープラチナのごとく猫パンチを繰り出す「ORAORA Cat」(本書144ページ)や、そのスピンオフ「岸部露伴は動かない」にインスパイアされた、とうもろこしを食べる猫「Eat Corn Cat」(同5ページ)など、パロディともとれるイラストが本書を賑わせます。
辛いときは猫を描こう
そして自動車やバイクに乗る猫の作品も多く、著者はメカに興味があるのかと思いきや「でもミニカーを集めるのは大好きです」(本書171ページ)なのだそうで、メイキングのページで使われている作品のモチーフはアンティークトイの宇宙船であります。
しかし、なぜ著者は猫を描くのか。表紙になっているコンビニに佇む猫を描いた作品の解説で「メンタルが弱っている時に(中略)疲れてコンビニで休んでいる自分の姿が面白く思えて」(本書164ページ)自画像の代理としての側面と「猫はいつもおかしな動きをしていて、人間のような性格だと感じることもあります」(同171ページ)と、猫に対する興味がないまぜになった結果なのかもしれません。
「黒山キャシー・ラム作品集 Life goes on」黒山キャシー・ラム 著 マール社 2860円(税込)