日本プラモデル世界との激闘史

 21世紀に入ってから四半世紀になろうとする現在、100円ショップでプラ板や兵士のミニサイズフィギュアが手に入るとは誰が予想していたでしょうか。「日本プラモデル世界との激闘史」(以下、本書)は日本のプラモが進んだ60年の歴史を語ったものです。


日本プラモ60年の変遷

 本書は日本製プラモの歴史を、その節々に発売された歴史的に価値のあるキットを紹介する形で紐解く一冊です。戦後日本ではアメリカ製のプラモが輸入されることで、模型の世界はそれまでの木製ソリッドモデルから一気にリアル志向に傾いていきます。

 アメリカ製のコピーとはいえ、日本製プラモが発売されたのは1958年。その中身は現用兵器を立体化したスケールモデルで、遅れて60年には漫画・アニメで人気の「鉄人28号」を商品化、キャラクターモデルの嚆矢となります。いずれにしろモーターで走行するなどのギミックを備えた商品が多くありました。

タミヤがプラモのあり方を変えた

 そんな中、田宮模型(以下、タミヤ)はギミックを組み込みながらも実機のディテール再現に重きを置き、戦車に搭乗する兵士、戦車以外の軍用車両、土嚢まで戦車キットを補完する「ミリタリーミニチュアシリーズ」を発売し、プラモをディスプレイモデルの方向へ進化させます。

 さらに仕上げ用の塗料、改造用のプラ板などをリリースして新たな楽しみ方を提示し、戦車模型の1/35スケールが国際的スタンダードサイズとなるなど、日本のみならず世界に影響を与えるメーカーとなりました。現在につながる模型環境の形成は70年代にタミヤが牽引したと見てよいでしょう。

キャラクターモデルの進化とガンプラ

 さて74年のアニメ「宇宙戦艦ヤマト」では、当初発売された模型がゼンマイで走行するギミックを備えていたものの、高年齢層のファンに答える形で改良されスケールモデルと同様のディテールを盛り込んで人気となりました。その恩恵を受けたバンダイ(当時)は79年の「機動戦士ガンダム」放送後に商品化を実現します。

 それまでの路線を踏襲し1/144・1/100とのスケール設定、玩具的なギミックを廃止した仕様で発売されたいわゆる「ガンプラ」は爆発的なヒットを記録し、以降40年にわたり目まぐるしいほどの技術革新を重ねながらシリーズ展開を続けることになりました。

世界に誇る日本製プラモと海外メーカーの追随

 誕生から30年にして日本製プラモは独自の進化を遂げ、世界にも前例のない繁栄を遂げます。それは日本周辺の国々を中心とした海外メーカーの勃興を引き起こしました。本書の後半はそんな海外メーカーの商品と日本メーカーの商品が入り乱れる形になります。

 出版時期の都合もあってか「おうち時間」を過ごすためプラモが再注目された最近の事情は掲載されていませんが「模型市場のカオス化とハイエンド化」(本書158ページ)が進む現在にあって、本書で歴史を俯瞰することで日本プラモについてもう一度考えてみるのも良いかもしれません。

「日本プラモデル世界との激闘史」西花池湖南 著 河出書房新社 1760円(税込)

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